【概要】
熄風通絡とは、体内に生じた内風（肝風など）を鎮め（熄風）、経絡の阻滞を解除して気血の通行を回復させる治法である。
主として肝陽化風・肝血不足・痰瘀阻絡などにより、痙攣・震え・麻木・偏身不遂・しびれ・疼痛などの神経・運動障害を呈する場合に用いられる。
「熄風」は動揺・攣急・震顫などの異常運動を鎮めること、「通絡」は経脈・絡脈の閉塞を解き、気血の流れを円滑にして機能回復を促すことを意味する。
本法は特に中風およびその後遺症、慢性神経症状において重要な治法である。
主な適応症状
- 手足の震え・痙攣・攣急
- 麻木・しびれ・感覚鈍麻
- 偏身不遂・運動障害
- 顔面神経麻痺・舌強・言語障害
- 舌質暗・舌苔膩、脈弦・渋など
これらは内風による動揺と、瘀血・痰濁による経絡閉阻が同時に存在することを示す。
主な病機
- 肝陽化風：情志失調・高齢・肝腎不足により内風が生じる。
- 肝血不足：筋脈が滋養されず、攣急・震顫を起こす。
- 痰瘀阻絡：痰濁や瘀血が絡脈を閉塞し、麻木・不遂を呈する。
- 中風後遺：風・痰・瘀が残留し、経絡の回復を妨げる。
治療では熄風を主軸に、活血・化痰・補虚を適宜組み合わせることが重要である。
主な配合法
代表的な方剤
- 鎮肝熄風湯：肝陽上亢・内風動揺による震顫・眩暈。
- 天麻鈎藤飲：肝風内動・高血圧性症状。
- 通竅活血湯：瘀血阻絡による中風後遺症。
- 補陽還五湯：気虚血瘀による半身不遂。
- 大定風珠：陰虚風動による痙攣。
臨床でのポイント
- 急性の中風・痙攣では救急対応を優先する。
- 実証では熄風・去邪を先行し、補益は控えめに。
- 虚証では肝血・肝腎の補益を重視する。
- 通絡薬は長期使用により回復を促す。
- リハビリ・運動療法との併用が効果的。
まとめ
熄風通絡法は、内風による異常運動を鎮め、経絡の阻滞を解消して神経・運動機能の回復を図る治法である。
中風および慢性神経障害において、熄風・活血・化痰・補虚の適切な組み合わせが治療成否を左右する。
醒脳・開竅・活絡と並び、神経系・中枢系治法の要となる概念である。
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