正虚邪恋とは

正虚邪恋とは、正気（体の抵抗力・回復力）が虚しているために、病邪を完全に排除できず、邪が体内に留まり続けている状態を指す病機用語です。
急性病が治りきらず慢性化した場合や、久病・虚弱体質においてよくみられ、「正は虚し、邪は去らず」という特徴を持ちます。

主な原因

• 久病・慢性疾患： 病が長引き、正気が消耗して邪を排除できなくなる。
• 体質虚弱： 先天不足や加齢により、正気が弱い。
• 失治・誤治： 祛邪が不十分、または過度な攻下・清熱で正気を損傷。
• 外感邪の残留： 外邪が完全に解表・清解されず体内に残る。

病理機転

• 正気虚弱 → 抗邪力低下。
• 邪気が体内に停留 → 病勢が遷延・反復。
• 邪が留まることで、気血津液の運行がさらに阻害。
• 虚実錯雑・寒熱錯雑の病態を形成。

主な症状

• 症状が長期にわたり改善と悪化を繰り返す
• 疲れやすいが、局所には実証様の症状が残る
• 微熱・悪寒・違和感が断続的に出現
• 痛み・痰・湿・瘀血などの病理産物が残存
• 体力低下、食欲不振、睡眠障害を伴いやすい

舌・脈の所見

• 舌： 淡または暗、苔薄白～やや膩、剥落を伴うことも
• 脈： 虚弱の中に弦・滑・数など邪実の要素を含む

関連する病証

• 久病入絡
• 虚実錯雑・寒熱夾雑
• 内生邪
• 痰湿内停・瘀血阻滞

治法

• 扶正祛邪： 正気を補いながら邪を除く。
• 補中兼清・補虚兼散： 補法と祛邪法を併用。
• 調和陰陽： 虚実・寒熱の偏りを是正。
• 分消処理： 痰・湿・瘀血など残留邪を段階的に処理。

養生の考え方

• 無理な発汗・下しすぎを避け、体力を温存する。
• 規則正しい生活で正気の回復を助ける。
• 過労・情志の消耗を避ける。
• 急激な改善を求めず、体質改善を重視する。

まとめ

正虚邪恋は、正気の虚と邪気の残留が同時に存在する病態であり、慢性化・難治化しやすいのが特徴です。
治療では祛邪のみ、補正のみのどちらにも偏らず、「扶正祛邪」を基本に、段階的・調和的な対応が重要となります。