扶正祛邪とは

概要

扶正祛邪(ふせい きょじゃ)とは、正気を扶けて邪気を祛するという、治療の根本理念に基づく総合的治法である。 「扶正」とは、人体の抵抗力・免疫力に相当する正気を補い強化することを指し、 「祛邪」とは、外来または内生の邪気を取り除く・排除することをいう。 この二者は相互に関連し、正気が充実すれば邪を祛し、邪が去れば正が自ずと回復する。 扶正祛邪法は、慢性病・虚実錯雑証・腫瘍・感染症・免疫疾患などに広く応用される。



主な適応症状

  • 正気虚弱と邪気未去が併存する病証
  • 慢性炎症・腫瘍・化膿・潰瘍などの遷延性疾患
  • 病後・術後の回復期における体力低下と邪気残留
  • 免疫低下を伴う感染症・難治性疾患
  • 虚実夾雑による倦怠・腫脹・疼痛・微熱など


主な病機

  • 正虚邪恋:正気が虚して邪が去らず、反復・遷延する。
  • 邪久傷正:邪が長く留まり、気血陰陽を損耗する。
  • 正虚邪実:体内に邪気がこもり、正気が虚して排除できない。
  • 邪去正虚:邪は去っても正気の損耗が残る状態。


主な配合法

  • 扶正祛邪+補気気虚による抗病力低下に(例:補中益気湯合銀翹散)。
  • 扶正祛邪+養血血虚を伴う慢性炎症・皮膚病に(例:帰脾湯合黄連解毒湯)。
  • 扶正祛邪+化痰痰湿・痰熱が邪実となる場合(例:二陳湯合温胆湯)。
  • 扶正祛邪+清熱解毒熱毒・感染・腫瘍性疾患に(例:黄耆建中湯合五味消毒飲)。
  • 扶正祛邪+活血化瘀血瘀を伴う慢性疾患・腫塊に(例:八珍湯合桃紅四物湯)。


代表的な方剤

  • 玉屏風散(ぎょくへいふうさん):扶正固表。虚弱体質の風邪予防に。
  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):補気扶正・挙陽。慢性病や術後の回復に。
  • 八珍湯(はっちんとう):益気養血・扶正。気血両虚に用いる。
  • 黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう):補気扶正・祛風散寒。虚弱による疼痛に。
  • 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):気血双補・扶正祛邪。慢性消耗性疾患に広く応用。
  • 人参敗毒散(にんじんはいどくさん):益気祛邪。体虚にして外感を受けやすい者に。


臨床でのポイント

  • 「正虚邪恋」「虚実夾雑」などの複雑な病態に対応する根本的治法。
  • 正気を扶ける(補気・養血・益陰・温陽など)と、邪気を祛する(清熱・化痰・行瘀など)を併用する。
  • 正気を補う際は、邪気の盛衰を見極めて補過ぎを避けることが重要。
  • 祛邪を行う際には、虚証を悪化させないように緩やかに行う。
  • 慢性炎症や腫瘍・免疫低下症において、体力維持と抗病力強化を同時に図る際に有用。


まとめ

扶正祛邪は、正気を補いながら邪気を排除するという、東洋医学の基本理念を体現する治法である。 正気を扶けて抵抗力を高めつつ、邪気(風・寒・湿・熱・瘀血・痰など)を取り除き、 身体の恒常性と自己回復力を回復させる。 慢性疾患・虚実錯雑証・腫瘍・免疫低下状態において特に重要であり、 代表方剤として十全大補湯・補中益気湯・玉屏風散などが挙げられる。

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