衛気不足(えきぶそく)とは、身体を外邪から守り、体温や発汗を調整する働きをもつ衛気(えき)が不足した状態を指します。
衛気は主に肺と脾の働きによって生成・運行され、体表を巡って皮膚・筋肉を温め、腠理(そうり:皮膚の開閉機能)を調節します。
そのため、衛気が不足すると体表の防衛力(免疫)低下・発汗異常・寒がり・風邪をひきやすいなどの症状が現れます。
原因
- 肺気虚: 肺の宣発・粛降作用が弱まり、衛気の推動・運行が低下する。
- 脾気虚: 飲食物から気を生化する力が弱く、衛気の生成源が不足する。
- 久病・虚労: 長期の病や過労により、気の生産・分布が衰える。
- 体質虚弱: 生まれつき腎精が弱く、元気・衛気の基礎が乏しい。
- 過度の発汗・汗腺開放: 津液・気をともに損失し、腠理が固まらない。
主な症状
- 風邪をひきやすい・外邪に感染しやすい
- 自汗(動かなくても自然に汗が出る)
- 寒がり・体が冷えやすい・温度変化に弱い
- 皮膚が乾燥・かゆみ・免疫低下による炎症
- 顔色が淡白・声に力がない
- 倦怠感・疲れやすい・息切れ
- 舌は淡紅・苔薄白、脈は虚・弱
舌・脈の所見
- 舌: 淡紅、苔薄白
- 脈: 虚・弱
病理機転
- 衛気は「肺の気」によって体表を巡るため、肺気虚があれば衛気も不足する。
- 衛気は腠理を開閉し、発汗や体温を調節するが、不足するとこれが乱れる。
- 衛気の不足は「衛外不固(えいがいふこ)」を招き、風寒などの外邪が侵入しやすくなる。
- 長期に続くと、気虚・陽虚へ進展し、冷えや慢性疲労が強まる。
代表的な方剤
- 玉屏風散(ぎょくへいふうさん): 衛気を固め、風邪予防や自汗に用いる基本方。
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう): 脾肺気虚を補い、衛気の生成を助ける。
- 人参湯(にんじんとう): 脾気虚寒で寒がり・倦怠のある場合に。
- 黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう): 虚弱体質・冷え・自汗を伴う場合に。
治法
- 益気固表: 気を補い、衛気を強化して体表の防衛力を高める。
- 健脾益肺: 衛気生成の源となる脾肺を補う。
- 収斂止汗: 腠理の開きすぎを引き締め、汗の漏れを防ぐ。
- 温陽扶正: 冷えが強い場合、陽気を補って温煦作用を回復する。
養生の考え方
- 薄着や冷たい飲食を避け、体表を冷やさないようにする。
- 規則正しい生活と十分な睡眠をとり、脾肺の働きを守る。
- 呼吸法や軽い運動(太極拳・気功など)で肺気を強化する。
- 黄耆・なつめ・山芋・ねぎ・しょうがなど、気を補う温性食材を摂る。
- 過度な発汗(サウナ・激しい運動)を控え、津液と気の損失を防ぐ。
まとめ
衛気不足とは、体表を防衛する気が不足しているために、風邪をひきやすく、自汗・寒がり・虚弱体質などを呈する状態です。
主な原因は脾肺気虚・久病・虚労・体質虚弱であり、治療の基本は益気固表・健脾益肺です。
代表方剤の玉屏風散・補中益気湯を用い、衛気を充実させることで、外邪に負けない体を作ることが要点です。
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