梅核気(ばいかくき) とは、喉のあたりに何かが「つかえた」ような異物感があるにもかかわらず、実際には物理的な異物や炎症が存在しない状態を指します。
これは主に肝気鬱結と痰気鬱結が互いに絡み合って起こる気機失調の病態であり、情志(感情)の影響を強く受けます。
現代医学では「咽喉球感症」や「ヒステリー球」に相当します。
病理概要
- 肝気鬱結: 情志の抑うつや怒りなどにより肝の疏泄機能が失調し、気機が滞る。
- 痰気互結: 気滞によって津液の運行が妨げられ、痰が形成され気道や咽喉に停滞する。
- 気鬱化火: 気滞が長引くと熱化し、喉の不快感や灼熱感を助長する。
- 気逆不降: 気の昇降が乱れ、咽中につかえるような異物感を生じる。
原因
- 情志失調: 怒り・憂慮・悲しみ・抑うつなどの精神的要因が主因。
- 肝気鬱滞: 肝の疏泄が失調し、気が咽喉部で停滞。
- 痰湿内生: 脾虚により津液が代謝されず痰湿を生じ、気滞と結合する。
- 気逆上衝: 気の流れが上へ衝き、喉の違和感を強める。
主な症状
- 咽喉に異物感があり、嚥下しても取れない・吐き出せない
- 喉のつかえ感が精神的に変動し、緊張やストレスで悪化
- 胸や脇が張る・溜息が多い・ため息をつくと軽快する
- 胸悶・心下痞・痰が多い・咽中の不快感
- 女性では月経不順や月経前症候群を伴うこともある
舌・脈の所見
- 舌: 舌質は淡紅~やや紅、苔は薄白または白膩
- 脈: 弦滑または弦細
病理機転
- 情志の抑うつにより肝気が鬱滞し、気の流れが阻害される。
- 脾の運化が低下して痰湿を生じ、気滞と絡み合って咽喉に停滞する。
- 気機が昇降不利となり、「咽中炙塞(えんちゅうしゃそく)」すなわち梅核状のつかえ感を生じる。
- 情緒変化とともに症状が増減するのが特徴。
代表的な方剤
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう): 肝気鬱結と痰気互結による梅核気の基本方。喉のつかえ・胸のつかえ・息苦しさに。
- 加味逍遥散(かみしょうようさん): 情志抑鬱が強く、いらいら・月経不順などを伴う場合。
- 温胆湯(うんたんとう): 痰湿が重く、胸悶や吐気を伴うときに。
- 柴胡疏肝散(さいこそかんさん): 肝鬱気滞が主で、胸脇の張りが強い場合に適する。
治法
- 理気解鬱: 肝気の滞りを解いて気の流れを調える。
- 化痰散結: 痰を取り除き、結滞を解消する。
- 和胃降逆: 気の昇降を整え、喉のつかえを改善する。
- 安神理気: 情志を安定させ、気鬱を防ぐ。
養生の考え方
- ストレスや感情の抑圧を避け、適度な発散を心がける。
- 深呼吸・散歩・趣味活動などで気の流れを促す。
- 脂っこい・甘い食事を控え、痰湿の生成を防ぐ。
- 温かい飲み物をとり、冷えによる気滞を防ぐ。
- 睡眠を十分に取り、精神の安定を図る。
まとめ
梅核気とは、情志の抑鬱や気滞・痰滞によって生じる咽中の異物感・閉塞感の病態です。
治療の基本は「理気化痰」「解鬱安神」であり、肝気を疏通し痰を除くことで喉のつかえ感を解消します。
情志の安定と生活の調和が、根本的な改善に不可欠です。
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