津液代謝障害(しんえきたいしゃしょうがい) とは、体内の水分である「津液(しんえき)」の生成・運行・排泄のいずれかに異常が生じた状態を指します。
津液は全身の潤いと生理機能を支える基礎物質であり、その代謝が滞ると「水湿」「痰飲」「水腫」「燥証」など、さまざまな病理変化を引き起こします。
原因は脾・肺・腎などの臓腑機能失調によることが多く、津液の偏りによって「水滞(すいたい)」または「津枯(しんこ)」の両極を呈します。
病理概要
- 津液生成の障害: 飲食物から津液を生成する脾胃の機能が低下し、津液の供給が不足する。
- 津液輸布の障害: 肺・三焦・気機の不利により、津液の運行・分布が停滞する。
- 津液排泄の障害: 腎や膀胱の気化機能が低下し、余剰水分が体内に滞る。
- 熱邪・燥邪による損傷: 津液が煎熬され、乾燥・消耗する。
原因
- 脾気虚弱: 飲食物の消化・吸収が不十分で、津液の生成が乏しくなる。
- 肺気不宣: 津液の輸布・宣散が滞り、皮毛や上部への潤いが不足する。
- 腎気不足: 津液の気化・排出が不全となり、浮腫や尿少を生じる。
- 気機阻滞: 肝鬱・痰湿などにより三焦の気機が滞り、津液の運行が妨げられる。
- 熱邪・燥邪の侵入: 津液を損傷して乾燥・口渇・便秘を引き起こす。
主な症状
- 津滞(水湿・痰飲型): 浮腫、身体の重だるさ、痰多、胸苦しさ、尿少など。
- 津枯(津液不足型): 口渇、咽乾、皮膚乾燥、便秘、尿少、舌乾など。
- めまい、倦怠感、四肢の重怠さ、むくみ、または乾燥感を伴うことが多い。
舌・脈の所見
- 津滞型: 舌質胖・苔白膩、脈濡または滑
- 津枯型: 舌紅少津・苔少または無苔、脈細数
病理機転
- 津液は「脾で生じ、肺で布き、腎で主る」ため、これらの臓腑の失調が代謝障害の根本となる。
- 気機が滞れば津液の輸送が停滞し、湿・痰・水腫を形成する。
- 熱邪・燥邪が侵入すれば、津液が煎熬・損耗し、陰液不足に至る。
- 長期化すると、水滞と陰虚が併存する「虚実錯雑」の病態を呈する。
代表的な方剤
- 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう): 痰飲・水滞によるめまい・動悸に。
- 五苓散(ごれいさん): 水湿の停滞による浮腫・尿少・口渇に。
- 六味地黄丸(ろくみじおうがん): 腎陰虚により津液が枯渇する場合に。
- 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう): 熱邪による津液損傷・口渇に。
- 参苓白朮散(じんれいびゃくじゅつさん): 脾虚による水湿停滞や倦怠・浮腫に。
治法
- 健脾化湿: 脾の運化を助け、水湿を除く。
- 理気行津: 気機を調え、津液の輸送を円滑にする。
- 利水滲湿: 余分な水分を排出する。
- 清熱生津: 熱により損傷した津液を回復する。
- 滋陰養液: 津液の根源である陰を補う。
養生の考え方
- 冷飲・脂っこい食事・過剰な甘味を避け、脾胃を守る。
- 適度な運動で気機を巡らせ、津液の運行を助ける。
- 十分な水分を摂りつつ、冷やしすぎないよう注意する。
- 規則正しい睡眠・生活リズムを保ち、脾腎の働きを維持する。
- 季節の変化に応じて、湿気・乾燥の影響から身体を守る。
まとめ
津液代謝障害とは、津液の生成・運行・排泄の異常によって生じる水分代謝の失調状態です。
治療の基本は「健脾化湿」「清熱生津」「利水滲湿」であり、脾・肺・腎の調整を通じて津液の正常な循環を回復させることが要点です。
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