陰陽失調(いんようしっちょう)とは、体内の陰(津液・血・陰液などの滋潤や冷却の作用)と陽(気・火・温煦の作用)のバランスが崩れた状態を指します。
東洋医学では、陰陽は人体の生理・病理の基本原理であり、陰陽の調和が健康の根本です。陰陽失調では、陰が不足して陽が相対的に旺盛になる場合(陰虚陽亢)や、陽が不足して陰が相対的に盛んになる場合(陽虚陰盛)など、さまざまな病態が現れます。
原因
- 先天不足: 先天的な精血不足により陰陽の基礎が弱い。
- 慢性疾病・過労: 長期病や過労によって気血陰陽が消耗する。
- 飲食不節: 偏食や暴飲暴食、冷暖不適が陰陽の生成や消耗に影響する。
- 情志失調: 怒・思・憂・恐など情緒の偏りが気機を乱し、陰陽のバランスを崩す。
- 外邪侵襲: 風寒・風熱・湿邪などの外邪により陰陽の働きが阻害される。
主な症状
- 陰虚陽亢: 発熱・盗汗・口渇・心悸・五心煩熱・不眠・便秘
- 陽虚陰盛: 畏寒・四肢冷感・疲労・息切れ・顔色蒼白・浮腫・下痢
- 精神不安・倦怠感・食欲不振など全身症状も共通
- 病状により、陰陽の偏りによる寒熱錯雑・虚実混在の症状が現れる
舌・脈の所見
- 陰虚陽亢: 舌紅・少苔、脈細数
- 陽虚陰盛: 舌淡、苔白湿、脈沈遅
- 病状に応じて、舌質・苔・脈象が寒熱・虚実の混合を示す場合もある
病理機転
- 陰陽は相互に制約・相互に依存しており、陰不足で陽が相対的に亢進、陽不足で陰が相対的に盛んになる。
- 陰陽の偏倚は気血津液や臓腑機能を損ない、長期化すると虚実錯雑・臓腑失調を招く。
- 治療には偏りを正し、陰陽の調和を回復することが重要である。
代表的な方剤
- 六味地黄丸(ろくみじおうがん): 陰虚による腰膝酸軟・耳鳴・盗汗に。
- 知柏地黄丸(ちばくじおうがん): 陰虚火旺による潮熱・口渇・便秘に。
- 真武湯(しんぶとう): 腎陽虚による下肢冷え・浮腫・腹痛に。
- 右帰丸(うきがん): 気血不足と腎陽虚を伴う陰陽失調に。
- 参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん): 脾陽虚により水湿停滞がある場合。
治法
- 調和陰陽: 欠けているものを補い、過剰なものを抑えて陰陽の均衡を回復する。
- 補陰・滋陰: 陰虚による熱象・乾燥症状に用いる。
- 温陽・益気: 陽虚による寒象・疲労・冷感に用いる。
- 補瀉兼施: 偏りのある陰陽を調整し、虚実の錯雑を改善する。
養生の考え方
- 陰陽バランスを意識した生活:睡眠・飲食・運動の調和を保つ
- 過労・冷暖差・精神ストレスを避ける
- 寒熱に応じた服装と食事調整(寒者には温食・温補、熱者には涼性食・清熱)
- 規則正しい生活リズムと適度な運動で気血の巡りを促す
- 水分と栄養の補充で陰液・津液の不足を防ぐ
まとめ
陰陽失調とは、体内の陰と陽のバランスが崩れ、陰虚陽亢(熱象)や陽虚陰盛(寒象)などの病態が現れる状態です。
治療の基本は調和陰陽・補陰・温陽・補瀉兼施であり、代表方剤として六味地黄丸・知柏地黄丸・真武湯・右帰丸などが用いられます。
陰陽の調和を回復させることにより、臓腑・気血津液の機能を整え、全身の健康を維持することが要点です。
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