概要
止血救急(しけつきゅうきゅう)は、急性の出血症状を速やかに制止し、血の逸脱を防ぐ治法である。 吐血・喀血・衄血・便血・崩漏など、出血が急激または大量に起こり、 生命に関わるような状況に対して用いられる。 そのため、根本治療よりもまずは止血・救命を優先し、 状況に応じて清熱涼血・収斂止血・温経散寒・益気固脱などの法を組み合わせる。
主な適応症状
- 吐血・喀血・衄血(鼻出血)
- 便血・下血・血尿
- 婦人科の崩漏・月経過多
- 外傷性出血・手術後出血
- 顔面蒼白・脈細弱・冷汗などの虚脱症状を伴う場合
主な病機
- 血熱妄行 → 絡脈損傷 → 吐血・衄血・便血
- 脾不統血 → 血溢脈外 → 崩漏・便血
- 気虚下陥 → 気不攝血 → 出血持続・顔面蒼白
- 外傷損絡 → 血溢於外 → 創傷出血
- 陰陽離決・亡血欲脱 → 気随血脱 → 意識低下・虚脱
治療原則
- 急則治標を原則とし、まず止血・救命を優先する。
- 血熱による出血には清熱涼血・凉血止血。
- 脾虚・気脱による出血には益気固脱・攝血止血。
- 寒凝による出血には温経散寒・温経止血。
- 外傷・術後出血には収斂止血・活血止痛を兼ねる。
主な配合法
- 止血救急+清熱涼血:血熱妄行による吐血・衄血(例:十灰散、犀角地黄湯)。
- 止血救急+益気固脱:気脱欲亡・大出血(例:独参湯、参附湯)。
- 止血救急+温経散寒:寒凝胞宮による崩漏・冷痛(例:温経湯)。
- 止血救急+化瘀止血:外傷・手術後出血(例:雲南白薬、三七粉)。
- 止血救急+養血復脈:亡血後の虚脱・脈微(例:生脈散、独参湯)。
代表的な方剤
- 十灰散(じっかいさん):血熱妄行による吐血・衄血・便血。
- 犀角地黄湯(さいかくじおうとう):熱入営血による吐血・斑疹・神昏。
- 黄土湯(おうどとう):脾陽虚寒による便血・下血。
- 独参湯(どくじんとう):気脱欲亡・大出血後の虚脱。
- 雲南白薬(うんなんはくやく):外傷・手術後の出血止血。
- 生脈散(しょうみゃくさん):亡血後の気陰両虚・脈微欲絶。
臨床でのポイント
- 止血救急は救急的対応を重視し、根治療法は出血安定後に行う。
- 原因が明確な場合(血熱・気虚・外傷など)は、その病機に応じた併用が必須。
- 過度な収斂止血は瘀血を生じやすいため、必要に応じて活血薬を少量配合する。
- 大量出血では単なる止血剤よりも、気の固摂・陽の回復を重視する。
- 急性期を過ぎたら、早めに養血・補気・化瘀の治療へ移行することが重要。
まとめ
止血救急は、急性出血に対して応急的に止血し、気血の亡脱を防ぐ治法である。 出血の原因に応じて清熱涼血・益気固脱・温経散寒などを組み合わせ、 出血を迅速に制御しながら、気血の回復を図る。 十灰散・独参湯・黄土湯・雲南白薬などが代表的な処方である。
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