概要
瀉火(しゃか)とは、体内に亢進した火熱を清瀉する治法である。 火は陽の極であり、旺盛になれば津液を損し、血を煎じ、神を擾し、また下焦へ移行すれば出血や潰瘍を引き起こす。 瀉火法は主として実熱・火邪亢盛・熱毒内盛の病証に用いられる。
「火」には心火・肝火・胃火・肺火・三焦火などの臓腑別があり、それぞれの特徴に応じて方剤を選用する。 一般に「瀉火」は「清熱」「涼血」「解毒」「安神」などの治法と密接に関連する。
主な適応症状
- 高熱・煩躁・口渇・顔面紅潮
- 口舌生瘡・咽喉腫痛・歯痛
- 尿赤・便秘・出血傾向
- 不眠・易怒・頭痛・目赤
- 舌紅・苔黄・脈数
主な病機
- 実火上炎:外邪の化熱または内生火熱により上焦・頭目・咽喉に熱が上炎。
- 臓腑火旺:肝火・心火・胃火などが盛んとなり、煩躁・不眠・口瘡・歯痛などを引き起こす。
- 熱毒内盛:火邪が盛んになり、膿・瘡瘍・出血・潰瘍などを生じる。
- 火盛傷津:火熱が強く津液を損傷し、口乾・便秘・尿少を呈する。
瀉火法の分類
- 清心瀉火:心火亢盛・煩躁・口瘡(例:導赤散、黄連解毒湯)。
- 瀉肝火:肝火上炎による頭痛・目赤・怒りやすい(例:竜胆瀉肝湯)。
- 瀉胃火:胃火上炎による歯痛・口臭・口渇(例:清胃散)。
- 瀉肺火:咳嗽・咽痛・黄痰などの肺熱(例:瀉白散)。
- 瀉三焦火:上中下三焦にわたる火熱(例:黄連解毒湯、涼膈散)。
- 瀉実火:実邪による明らかな熱盛に対し、苦寒薬で火を瀉す(例:白虎湯)。
- 瀉虚火:陰虚による虚熱を鎮める(例:青蒿鱉甲湯、知柏地黄丸)。
主な配合法
- 瀉火+清熱:高熱・煩躁・口渇(例:白虎湯)。
- 瀉火+解毒:熱毒内盛・口瘡・咽喉腫痛(例:黄連解毒湯、涼膈散)。
- 瀉火+養陰:火熱傷陰・口乾・不眠(例:黄連阿膠湯)。
- 瀉火+安神:心火妄動による驚悸・不眠(例:朱砂安神丸)。
- 瀉火+利尿:心火移熱小腸による尿赤(例:導赤散)。
- 瀉火+涼血:血熱妄行による出血(例:犀角地黄湯)。
代表的な方剤
- 白虎湯(びゃっことう):清熱瀉火・生津止渇。熱盛による高熱・煩渇・大汗。
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう):清熱瀉火解毒。三焦火盛・煩躁・出血・口瘡。
- 導赤散(どうせきさん):清心瀉火・利尿。心火移熱小腸による尿赤・口渇。
- 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう):瀉肝火・清下焦湿熱。目赤・陰部湿熱。
- 清胃散(せいいさん):瀉胃火・冷血解毒。歯痛・歯肉腫脹・口臭。
- 瀉白散(しゃはくさん):瀉肺火・止咳平喘。咳嗽・痰黄・発熱。
- 涼膈散(りょうかくさん):清上焦火・解毒瀉熱。口舌生瘡・煩躁。
- 青蒿鱉甲湯(せいこうべっこうとう):瀉虚火・退蒸熱。陰虚による潮熱・盗汗。
臨床でのポイント
- 瀉火は実火か虚火かを見極めることが第一である。
- 実火には苦寒薬(黄連・黄芩・石膏など)を、虚火には滋陰降火薬(知母・黄柏・鱉甲など)を用いる。
- 火邪が上焦にある場合は、気を降ろす薬(連翹・牛蒡子など)を併用する。
- 火盛による出血では、涼血止血薬を加える。
- 火熱が強いときは津液を傷るため、石膏・麦門冬などで陰液を保護する。
まとめ
瀉火とは、体内の過剰な火熱を清めて鎮める基本治法であり、 熱盛による煩躁・出血・口瘡・炎症などに広く応用される。 火の所在(心火・肝火・胃火・肺火など)を明確にし、 実火・虚火の別を弁じて、清熱・解毒・養陰・利尿などを配合して運用する。
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