虚熱上炎とは

虚熱上炎（きょねつじょうえん）とは、体の陰液（いんえき）や血が不足して、相対的に陽気が上へ偏り、虚熱（実際の炎症ではなく、虚に由来する熱）が上炎する状態を指します。
陰虚（いんきょ：体を冷やし・潤す成分の不足）によって「陰が下がり、陽が相対的に上昇」するため、頭部や上半身にほてり・口渇・のぼせなどが現れます。
実熱（邪熱の亢進）とは異なり、体力の消耗や慢性病、老化、過労などによって生じるのが特徴です。

原因

• 久病による陰液の損耗： 慢性疾患や長期の消耗で陰液が減少し、虚熱が内生する。
• 過労・夜更かし： 精血を消耗し、陰虚火旺を招く。
• 情志過労： 精神的緊張や思慮過多によって陰血を損傷する。
• 熱病後の陰損： 高熱や炎症性疾患の後に津液が減り、虚熱が残る。
• 老化・体質的陰虚： 加齢により腎陰や肝血が減少し、上熱が生じる。

病理機転

• 陰液・血の不足により、陽気を抑制できなくなる。
• その結果、虚熱（陰虚火旺）が内生し、上半身に炎上する。
• 頭・顔・胸などにほてりや熱感、口渇・不眠・盗汗（寝汗）などが現れる。
• 進行すると、陰虚火旺 → 虚火上炎 → 陰損及陽の段階へと発展する。

主な症状

• 午後・夜間に強くなるほてり・微熱
• 顔や頬ののぼせ・手足のほてり（五心煩熱）
• 口渇・咽の乾き・舌や唇の乾燥
• 寝汗（盗汗）・のぼせ・めまい
• 心煩・不眠・動悸・焦燥感
• 舌は紅・苔少または無苔、脈は細数または虚数

舌・脈の所見

• 舌： 紅、乾燥、苔少または無苔。
• 脈： 細数、または虚数。

代表的な方剤

• 六味地黄丸（ろくみじおうがん）： 腎陰虚による虚熱・のぼせ・腰膝酸軟に。
• 知柏地黄丸（ちばくじおうがん）： 腎陰虚に虚熱が強く、ほてり・盗汗がある場合。
• 滋陰降火湯（じいんこうかとう）： 陰虚火旺による煩熱・不眠・咽乾に。
• 天王補心丹（てんのうほしんたん）： 心腎陰虚による心煩・不眠・健忘に。
• 麦門冬湯（ばくもんどうとう）： 陰虚による咳嗽・咽乾・痰少に。
• 青蒿鱉甲湯（せいこうべつこうとう）： 陰虚による骨蒸潮熱・夜熱早涼に。

治法

• 滋陰降火： 陰を補い、虚火を鎮める。
• 清熱除煩： 内熱・煩躁を取り除く。
• 養血安神： 陰血を養い、不眠や焦燥を鎮める。
• 潤燥生津： 津液を補い、乾燥を潤す。

養生の考え方

• 夜更かし・過労を避け、十分な睡眠を確保する。
• 刺激物・辛い・焼き物・アルコールなどの熱性食品を控える。
• 体を潤す食材（梨・百合根・蜂蜜・銀耳・黒ごま・山薬など）を摂取する。
• 精神的な焦り・怒りを避け、穏やかな気持ちを保つ。
• 過度な発汗・運動を避け、陰液の消耗を防ぐ。

まとめ

虚熱上炎とは、陰液の不足によって陽気が相対的に上昇し、虚火が上炎する状態です。
その結果、ほてり・口渇・不眠・盗汗などの陰虚火旺の症状が現れます。
治法は滋陰降火・清熱除煩・養血安神が基本であり、陰を補って虚熱を鎮め、上炎を防ぐことが要点です。
生活面では、休養と潤いを重視し、陰液を養うことが根本的な改善につながります。