概念
安神益脳(あんしんえきのう)とは、心神を安定させ、脳の働きを補い強化して精神・意識・記憶の機能を改善する治法である。
心血や腎精の不足、あるいは痰濁や瘀血による脳の栄養障害があると、不眠・健忘・めまい・精神不安・注意力低下などが現れる。
安神益脳法は、心を養い腎を補い、気血を充実させて脳を滋養することを目的とする。
所属
主に安神法および補益法に属し、心脾両虚・腎精不足・痰濁阻竅・血虚擾神などによる精神・神経系の失調に用いられる。
効能
- 心神を安定させ、不安や焦燥を鎮める。
- 腎精・脳髄を滋養し、記憶力や集中力を回復する。
- 心脾を補い、睡眠を安定させる。
- 痰濁・瘀血を除き、脳の通達を改善する。
- 精神疲労・健忘・眩暈・思考低下を改善する。
主治
- 心脾両虚:不眠、健忘、倦怠、食欲不振。
- 腎精不足:健忘、耳鳴、めまい、腰膝軟弱。
- 痰濁阻竅:頭重、ぼんやり感、集中力低下。
- 血虚擾神:不安、驚きやすい、動悸、顔色蒼白。
- 脳髄不足:記憶減退、反応鈍化、加齢性認知低下。
病機
心血・腎精・気血の不足や、痰濁・瘀血の阻滞によって、心神の養いが失われ、脳の清陽が昇らない状態が生じる。
その結果、精神不安・健忘・不眠・注意力低下・意識混濁が現れる。
安神益脳法は、補益心脾・滋養肝腎・化痰通竅を図り、神志を安定させ、脳の働きを高める。
代表方剤
- 帰脾湯(きひとう):心脾両虚、不眠、健忘、倦怠。
- 天王補心丹(てんのうほしんたん):心腎陰虚、不眠、健忘、焦躁。
- 加味帰脾湯(かみきひとう):心血虚、不安、抑鬱傾向。
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):脳疲労、集中力低下、倦怠感。
- 聡耳湯(そうじとう):腎精虚、耳鳴、健忘、脳の働き低下。
臨床応用
- 不眠・焦燥・ストレスによる神経症状。
- 記憶力低下・注意集中困難。
- 加齢性健忘・初期の認知機能低下。
- 脳循環不全・更年期に伴う精神不安。
- 慢性疲労・虚弱体質による心身不安定。
使用上の注意
- 実熱・痰火擾神の証では清熱安神法を併用する。
- 重度の抑鬱や精神疾患では専門治療を優先する。
- 虚証が著しい場合は長期的補養が必要。
- 脳血管疾患や器質的障害がある場合は現代医学的評価を行う。
まとめ
安神益脳法は、心神を安定させ、脳を滋養して精神機能を回復する治法である。
代表方剤は帰脾湯・天王補心丹・聡耳湯などで、補心脾・滋腎精・安神益智が治療の要点となる。
虚労・神経疲労・老年性健忘などに応用される。
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