概念
健脊安神(けんせきあんしん)とは、脊柱・腰背部の気血を充実させて身体の支持力を高め、同時に心神を安定させる治法である。
長期の疲労・腎虚・脊髄や背部の気血不足などにより、脊柱が弱く、倦怠・不眠・精神不安が生じる場合に用いる。
健脊安神法は、腎と督脈を補い、脊柱を強健にし、心神を安寧にすることを目的とする。
所属
主に補腎法・安神法に属し、腎虚・気血不足・督脈不充・心神不寧による脊弱や精神不安に用いる。
効能
- 脊柱と腰背部を強健にし、姿勢や体力を安定させる。
- 腎精を補い、骨髄と脳の機能を養う。
- 気血を充実させ、倦怠や虚弱を改善する。
- 心神を安定させ、不眠・不安・精神緊張を和らげる。
- 督脈を通じて、心腎の交通を促す。
主治
- 腎虚脊弱:腰背のだるさ、下肢の力不足、倦怠感。
- 気血不足:疲労、集中力低下、頭重、めまい。
- 心神不寧:不眠、不安、動悸、精神的緊張。
- 督脈虚損:背筋の力が抜ける、身体の支えが弱い。
- 老化・過労による健忘・不眠:心腎不交、神志不安。
病機
腎は「骨を主り、髄を生じ、脳を充たす」。
よって腎虚により督脈が失養すると、脊柱が弱く、精神的安定を失いやすくなる。
また心腎不交・気血両虚が進むと、倦怠・不眠・健忘・不安などが発生する。
健脊安神法は、補腎益精・養血強筋・交通心腎・安神定志を図ることで、心身両面の安定を回復する。
代表方剤
- 六味丸(ろくみがん):腎陰虚による腰膝軟弱、倦怠。
- 帰脾湯(きひとう):気血両虚による不眠、健忘、疲労。
- 天王補心丹(てんのうほしんたん):心腎両虚、不眠、多夢、精神不安。
- 右帰丸(うきがん):腎陽虚による腰膝冷痛、疲労。
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):気虚・疲労・脱力感。
臨床応用
- 慢性腰背痛、加齢による筋力低下。
- 長期の疲労・虚弱による不眠や精神不安。
- 老年期の心身の衰え、注意力低下。
- 過労・ストレスによる倦怠や集中力低下。
- リハビリ・養生目的での体力回復。
使用上の注意
- 実熱・痰湿停滞がある場合は、清熱化湿法を併用する。
- 急性腰痛や外傷性疼痛には適さない。
- 陰陽いずれの虚が主かを弁別して方剤を選ぶ。
- 精神症状が強い場合は、鎮静・安神薬を併用する。
まとめ
健脊安神法は、腎精を補い、脊柱を強健にし、心神を安定させる治法である。
代表方剤には六味丸・帰脾湯・天王補心丹などがあり、補腎・養血・安神を中心として心身の調和を図る。
特に脊柱虚弱・不眠・精神疲労を伴う慢性虚証に適する。
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