概要
補腎（ほじん）は、腎気・腎精・腎陰・腎陽の不足を補い、生命力を回復させる治法である。 腎は「先天の本」であり、生命の根源である精を蔵し、成長・発育・生殖・水液代謝・骨髄・脳などを主る。 腎が虚すると、腰膝酸軟・耳鳴・健忘・疲労・寒冷感・不妊・性機能低下などの症状が現れる。 補腎法は、腎虚の性質（陰虚・陽虚・精虚など）を辨別し、相応する薬を用いて腎の機能を回復させることを目的とする。
主な適応症状
- 腰膝酸軟・下肢無力
- 耳鳴・難聴・健忘
- 疲労倦怠・虚弱・老化
- 遺精・早漏・陽萎・不妊
- 月経不調・閉経・不妊
- 尿頻・夜間多尿・小便清長または短少
- 冷え・顔色白・舌質淡または紅少苔
主な病機
- 腎気不足：生命力低下・成長遅延・老化加速。
- 腎陽虚：命門火衰により、冷え・むくみ・性機能低下・下痢。
- 腎陰虚：陰液不足により、潮熱・盗汗・口乾・耳鳴。
- 腎精不足：精血同源の失調により、不妊・発育不良・骨痿。
- 腎気不固：小便頻数・遺精・流産などの固摂機能低下。
治療原則
- 腎虚の性質（陰・陽・精・気）を辨別して補う。
- 腎陽虚には温補法、腎陰虚には滋陰法を用いる。
- 腎精不足には填精益髄法を、腎気不固には固腎固摂法を行う。
- 久病・老化・疲労などによる虚衰では、脾・肝・心など他臓との関連を考慮して併補する。
主な配合法
- 補腎＋助陽：腎陽虚による冷え・腰膝酸軟（例：右帰丸、八味地黄丸）。
- 補腎＋滋陰：腎陰虚による潮熱・盗汗（例：六味地黄丸、知柏地黄丸）。
- 補腎＋益精：精虚による不妊・早衰（例：左帰丸、龜鹿二仙膠）。
- 補腎＋健脾：脾腎両虚による下痢・浮腫（例：参苓白朮散合金匱腎気丸）。
- 補腎＋養心：心腎不交による不眠・動悸（例：天王補心丹、交泰丸）。
- 補腎＋疏肝：肝腎陰虚によるめまい・月経不順（例：一貫煎）。
代表的な方剤
- 六味地黄丸（ろくみじおうがん）：腎陰虚の基本方。腰膝酸軟・口乾・盗汗。
- 八味地黄丸（はちみじおうがん）：腎陽虚による冷え・頻尿・腰痛。
- 右帰丸（ゆうきがん）：真陽虚衰による寒冷・陽萎・下痢。
- 左帰丸（さきがん）：腎精不足・陰虚による虚熱・精損。
- 知柏地黄丸（ちばくじおうがん）：腎陰虚火旺による潮熱・盗汗。
- 龜鹿二仙膠（きろくにせんこう）：精血双補・老化・骨痿・虚損。
- 金匱腎気丸（きんきじんきがん）：腎陽虚・水腫・腰痛・頻尿。
臨床でのポイント
- 補腎法は、生命力・精力・回復力を高める根本的な治法である。
- 腎陰虚か腎陽虚かを見極めることが最も重要である。
- 腎虚はしばしば脾虚・肝虚・心虚を伴うため、全身のバランス補正を意識する。
- 高齢者・慢性病・不妊・更年期・虚弱体質に広く応用される。
- 実熱・湿熱・外感など実邪の存在下では、補腎薬を急用しない。
まとめ
補腎は、腎気・腎精・腎陰・腎陽の虚に対して生命力を回復する基本治法である。 腎は成長・生殖・水液代謝・骨・脳を主るため、その虚は多彩な全身症状を呈する。 六味地黄丸・八味地黄丸・右帰丸・左帰丸などが代表方剤であり、 陰陽の虚実を辨別して適切に補うことが臨床の要である。
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