概要
養胃陰(よういいん)とは、胃陰を養い、津液を増して胃の潤いと機能を回復させる治法である。 「胃陰」とは、胃の中にある滋潤・冷却の本源となる陰液を指し、これが十分であれば胃気が和し、消化・受納・腐熟が正常に行われる。 しかし、熱邪・燥邪・長期の嘔吐・下痢・過労・多汗・薬物の過用などにより胃陰が損耗すると、胃の津液が枯渇して 口渇・咽乾・胃痛・食欲不振・舌紅少苔などの症状を呈する。 養胃陰法は、こうした胃陰不足・津液損傷による虚熱や胃気不和を改善するために用いられる。
主に胃陰虚・胃熱傷陰・久病後の虚煩口乾などに応用され、滋陰・養液・和胃の作用を兼ね備える。
主な適応症状
- 口渇・咽乾・口苦
- 胃痛・灼熱感・軽い空腹感(食後に悪化)
- 食欲不振・胃のもたれ・胃部不快感
- 舌紅少苔または無苔・舌裂紋
- 脈細数または虚数
- 長期の病後・発熱後・消耗後の倦怠感・口乾
これらは、胃陰の不足によって津液が枯渇し、胃気の和降が失調した結果である。
主な病機
- 熱邪傷陰:外感熱病や長期発熱により津液が失われ、胃陰が枯渇。
- 燥邪耗津:乾燥気候・辛燥の飲食・薬物により胃の津液が損耗。
- 過労・多汗・嘔吐・下痢:体液の消耗により胃陰虚が進行。
- 胃陰不足:陰虚による虚熱が内生し、胃中の潤いを損なう。
治療の要点は、滋陰養液により胃を潤し、虚熱を清し、胃気を和すことである。
主な配合法
- 養胃陰+清胃熱:胃熱傷陰による口渇・胃痛(例:玉女煎)。
- 養胃陰+益気:久病後の胃陰気虚(例:沙参麦門冬湯)。
- 養胃陰+潤燥:燥邪による口乾・便秘(例:増液湯)。
- 養胃陰+和胃止嘔:胃陰虚による胃気不和・嘔吐(例:竹葉石膏湯)。
- 養胃陰+養心安神:陰虚煩熱・不眠・焦躁(例:天王補心丹)。
代表的な方剤
- 沙参麦門冬湯(しゃじんばくもんどうとう):養陰生津・清肺和胃。口渇・乾咳・胃陰虚に用いる。
- 玉女煎(ぎょくじょせん):清胃熱・滋腎陰。胃熱傷陰・歯痛・胃灼熱感に適応。
- 益胃湯(えきいとう):養胃生津・清虚熱。胃陰虚による口渇・食欲不振・便秘。
- 竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう):清熱生津・和胃止嘔。熱病後の口渇・虚熱嘔吐。
- 増液湯(ぞうえきとう):増液潤燥。胃陰虚と燥便・軽い虚熱を伴う場合。
臨床でのポイント
- 養胃陰は、胃陰虚・津液不足・虚熱の出現が目標となる。
- 主症状は「口渇・舌紅少苔・胃部灼熱感・食欲不振・虚煩」である。
- 実熱や食滞が残る場合は、まず清熱や消食を行ってから用いる。
- 胃陰が虚すると同時に脾気虚を伴うことが多く、補気健脾薬を併用する。
- 冷えを伴わない虚熱傾向の胃腸不調や、慢性胃炎・消耗性疾患に有効。
まとめ
養胃陰は、胃の陰液を養って津液を回復し、虚熱を清して胃気を和する治法である。 熱邪・燥邪・長期病後・虚労などにより胃陰が損傷したときに用いられ、 代表方剤は沙参麦門冬湯・玉女煎・益胃湯・竹葉石膏湯などである。 清熱と滋陰を併用し、胃を潤して気を調えることが臨床の要点である。
0 件のコメント:
コメントを投稿