概要
止血(しけつ)は、出血を抑え、血行を正常化して血分の安定を図る治法である。 出血は気血の失調、脈絡の損傷、熱・瘀・虚・寒などによって起こる。 したがって止血は単に血を止めるだけでなく、出血の原因(熱・瘀・気虚・寒など)を正すことを重視する。 止血法は「涼血止血」「温経止血」「収斂止血」「化瘀止血」「補虚止血」などに分類され、 出血部位(上・中・下焦)や性質(鮮紅・暗紫・冷痛など)に応じて使い分ける。
主な適応症状
- 吐血・喀血・衄血(鼻血)・便血・尿血
- 崩漏・月経過多・産後出血
- 皮下出血・血斑・歯齦出血
- 血色鮮紅または暗紫・血塊を伴う場合あり
- 舌質紅または淡、脈数・虚・細など、証により異なる
主な病機
- 血熱妄行:熱邪または陰虚火旺により血が妄行して出血。
- 気虚不攝:気の統血作用が低下し、血が脈外に溢出。
- 瘀血阻滞:血行不暢により新血の運行が乱れ、出血や漏下を生じる。
- 寒凝血滞:寒邪が経絡を凝滞させ、血が行かずに外溢する。
- 外傷損絡:外傷・打撲などで脈絡が破れ出血。
治療原則
- 単に血を止めるのではなく、標本を兼ねて治すことを重視する。
- 血熱には清熱涼血、気虚には補気攝血、寒凝には温経止血を行う。
- 瘀血を伴えば活血化瘀止血、外傷には止血・生肌を兼ねる。
- 慢性出血では脾不統血・気虚を補う必要がある。
- 急性大量出血では速やかに止血し、同時に気陰を保護する。
主な配合法
- 止血+涼血:血熱妄行による吐血・衄血・崩漏(例:十灰散、凉血地黄湯)。
- 止血+温経:寒凝経脈による月経過少・痛経(例:温経湯、当帰四逆湯)。
- 止血+化瘀:瘀血阻絡による崩漏・産後出血(例:生化湯、桃紅四物湯)。
- 止血+補気:気虚不攝による慢性出血(例:帰脾湯、黄土湯)。
- 止血+祛風燥湿:皮膚出血・紫斑(例:紫河車散、茜根散)。
代表的な方剤
- 十灰散(じっかいさん):血熱妄行による吐血・衄血。
- 凉血地黄湯(りょうけつじおうとう):血熱による出血・皮下出血。
- 黄土湯(おうどとう):脾陽虚による便血・下血。
- 帰脾湯(きひとう):気虚不攝による崩漏・紫斑・慢性出血。
- 生化湯(しょうかとう):産後瘀血停滞・悪露不尽・腹痛。
- 当帰四逆湯(とうきしぎゃくとう):寒凝血滞による経閉・冷痛・四肢厥冷。
臨床でのポイント
- 止血治法では、「止める」だけでなく「正す」ことを目的とする。
- 血熱には清熱、気虚には補気、寒には温経、瘀血には化瘀を兼ねる。
- 婦人科・消化器・呼吸器など、全身の出血性疾患に広く応用される。
- 慢性出血では脾虚・腎虚を伴うことが多く、健脾・補腎も考慮する。
- 急性出血では涼血止血薬を速効的に用い、重症では補気・養陰を併用する。
まとめ
止血は、出血を抑え、血分の安定を回復させる基本治法である。 出血の性質により、涼血・温経・化瘀・補虚などを使い分けることが重要。 代表方剤は十灰散・黄土湯・帰脾湯などで、出血の「原因」に応じて柔軟に応用される。
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