概要
温経(おんけい)とは、寒によって経脈の気血が阻滞し、経行不利となる状態を温めて通す治法である。 主に寒凝血滞・寒冷による経脈不通・婦人科疾患に用いられ、 温経散寒・養血通脈・調経止痛を目的とする。 「温経」は単に温めるだけでなく、気血の運行を促し、経脈を通暢にして、 陰陽・気血・経脈の調和を図る総合的な治法である。
主な適応症状
- 下腹部冷痛・月経不順・月経痛
- 月経量少・月経遅延・閉経・経血暗紫で血塊を伴う
- 不妊症・冷え症・帯下量多または少
- 四肢冷感・唇や爪の色が暗い
- 舌質暗・苔薄白、脈沈遅または弦細
主な病機
- 寒邪客於経脈 → 気血運行阻滞 → 経行不暢・疼痛
- 陽虚寒凝 → 血行不利 → 月経不調・不妊
- 寒滞衝任 → 気滞血瘀 → 経閉・少経・痛経
- 血行が滞ることで新血の生成も妨げられ、寒血・瘀血が併発する。
治療原則
- 温経散寒・養血活血・調経止痛を基本とする。
- 寒による気血阻滞には温経通脈、瘀血を伴えば活血化瘀を兼ねる。
- 血虚がある場合は養血、気虚があれば益気を併用する。
- 陰虚内寒には温経養血の法を用いる。
- 寒が実寒か虚寒かを見極め、薬量・配伍を調整する。
主な配合法
- 温経+活血:寒凝血瘀による痛経・経閉(例:温経湯)。
- 温経+養血:寒による血虚・月経量少(例:当帰四逆湯)。
- 温経+祛寒:寒湿による経脈閉塞・冷え症(例:呉茱萸湯)。
- 温経+理気:気滞血瘀・寒滞による腹部膨満・月経痛。
- 温経+補腎:衝任虚寒・不妊(例:右帰丸+温経湯)。
代表的な方剤
- 温経湯(うんけいとう):衝任虚寒・瘀血による月経不調・不妊症。
- 当帰四逆湯(とうきしぎゃくとう):血虚寒凝による手足厥冷・痛経。
- 呉茱萸湯(ごしゅゆとう):寒凝肝胃・嘔吐・頭痛・月経痛。
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):瘀血による下腹部抵抗・疼痛(寒瘀兼)。
- 少腹逐瘀湯(しょうふくちくおとう):寒瘀による下腹痛・月経血塊。
臨床でのポイント
- 温経は主に婦人科領域(痛経・月経不順・不妊症)で重要な治法である。
- 冷えにより経脈が閉塞すると気血が巡らず、経行が乱れる。
- 温めて通しながら、血を補い、瘀を去り、経を調えることが核心である。
- 単なる温法ではなく、「温経養血活血」の三者調整が特徴。
- 寒滞に瘀血・虚血を伴う複雑な証に応用される。
まとめ
温経とは、寒邪によって経脈が阻滞し、血行が悪くなった状態を温めて通す治法である。 「温経散寒・養血通脈・調経止痛」を基本とし、婦人科系の虚寒・寒瘀証に広く応用される。 代表方剤は温経湯・当帰四逆湯などであり、寒による血行障害の根本改善を図る。
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