概要
養血緩急(ようけつかんきゅう)とは、 血を養って筋脈の拘急(こうきゅう:けいれん・ひきつれ・こわばり)をゆるめる治法である。 血は筋肉・腱脈を滋養してその柔軟性を保つが、 血虚になると筋肉が栄養を失い、弾力を失って拘急・攣急・疼痛などが起こる。 このため、血を補って潤し、筋脈の拘急を和らげることを目的とする。
古くは「血虚則筋急」といい、血虚による痙攣・疼痛・四肢のこわばりなどに応用される。 また、月経不順・産後腹痛・虚労などに伴う筋肉や腹部の緊張にも広く用いられる。
主な適応症状
- 筋肉や四肢のけいれん・ひきつれ・しびれ
- 腹痛・筋肉痛・関節拘急
- 月経痛・産後腹痛・虚労による筋緊張
- 顔色萎黄・唇爪淡白・脈細などの血虚症状を伴う場合
これらは、血虚によって筋肉・腱が十分に滋養されず、陰液の不足により柔潤を失うために起こる。 したがって、養血緩急法では血を補って滋潤し、同時に筋脈の拘急を緩めることが目的となる。
主な病機
- 血虚失養 → 筋脈拘急・疼痛・しびれ。
- 血虚生風 → 四肢の痙攣・手足の震え。
- 産後・病後・慢性虚労 → 血虚筋攣。
血虚により「風」が内動し、筋がひきつる状態を伴う場合には、 養血とともに息風(そくふう)や安神の法を兼ねることもある。
主な配合法
- 養血緩急+活血:血虚に軽い瘀血を伴う場合(例:当帰芍薬散)。
- 養血緩急+祛風:血虚生風による手足の痙攣(例:芍薬甘草湯+当帰)。
- 養血緩急+温経:寒による筋攣・腹痛(例:当帰四逆加呉茱萸生姜湯)。
- 養血緩急+和血止痛:月経痛・産後腹痛(例:温経湯)。
- 養血緩急+安神:血虚心煩・不眠・けいれんを伴う場合(例:酸棗仁湯合四物湯)。
代表的な方剤
- 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう):養血緩急の基本方。血虚により筋脈が拘急するのを和らげる。
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):養血・活血・健脾・利水。血虚による冷え・むくみ・筋攣に。
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう):温経養血・散寒緩急。寒による四肢拘急に適す。
- 温経湯(うんけいとう):養血温経・調経止痛。血虚寒凝による月経痛や腹部の緊張に。
臨床でのポイント
- 筋肉や腹部の「こわばり・けいれん・引きつり」を目標とする。
- 痛みがあっても、押すと楽になる(虚証の特徴)場合に多い。
- 冷えを伴えば温経薬を加え、瘀血を伴えば活血薬を加える。
- 脾虚や気血両虚がある場合は、健脾補気薬を併用して血の生化を助ける。
- 実証の拘急(寒湿・痰瘀・風邪など)とは鑑別が必要。
まとめ
養血緩急法は、血を養って筋脈を滋潤し、拘急・けいれん・疼痛を和らげる治法である。 代表方剤は芍薬甘草湯・当帰芍薬散・温経湯など。 血虚を本とし、筋肉・腱の栄養不足に起因する攣急・疼痛を改善する。 臨床では月経痛・産後の腹痛・虚労の筋攣などに応用される。
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