概念
理下焦（りかしょう）とは、下焦（腎・膀胱・大腸・小腸など）の機能を調整し、水液代謝や排泄機能を正常化する治法である。 「理」とは整える・調えるの意であり、理下焦法は、下焦における気機の滞り・湿熱・寒凝・虚損などを改善して、排尿・排便・生殖機能を調整することを目的とする。
所属
理下焦法は、調整法に属し、主に三焦弁証における下焦の失調（尿・便・生殖系の障害）に対して用いられる。 症状に応じて、清熱法・利湿法・温補法・補腎法などと併用される。
効能
- 下焦の気機を調整し、通利・固渋のバランスを整える。
- 排尿・排便機能を正常化する。
- 湿熱・寒湿を去り、水道を通じる。
- 腎気・膀胱気化を回復し、水液代謝を調える。
- 生殖器系・泌尿器系の異常を改善する。
主治
- 下焦湿熱：尿の濁り・排尿痛・頻尿・帯下黄臭・下腹部の熱感。
- 下焦寒湿：小便不利・浮腫・冷え・腰以下の重だるさ。
- 腎虚下元不固：遺精・尿漏れ・頻尿・下痢。
- 大腸実熱：便秘・腹満・口渇・尿黄。
- 下焦気滞・血瘀：下腹部の張痛・月経不調・排尿困難。
病機
下焦は主に腎・膀胱・大腸・小腸に関わり、気化・排泄・生殖の機能を担う。 外邪（湿・寒・熱）の侵入、あるいは内因（腎虚・気滞・瘀血）によって下焦の気機が失調すると、水道不利・排泄障害・泌尿・生殖異常などが生じる。 理下焦法は、気機の通調・寒熱の均衡・虚実の調和を図り、下焦の代謝と排泄の正常化を目的とする。
代表方剤
- 竜胆瀉肝湯：下焦湿熱による排尿痛・帯下・陰部湿疹。
- 八正散：膀胱湿熱による尿痛・尿濁・排尿困難。
- 真武湯：腎陽虚・水滞による浮腫・下痢・四肢冷え。
- 腎気丸：腎虚による頻尿・腰膝酸軟・下半身の冷え。
- 四物湯＋桃紅：血瘀による下腹部痛・月経不順・排便困難。
- 補中益気湯：中気下陥による排尿不利・脱肛・慢性便秘。
臨床応用
- 膀胱炎・尿道炎・前立腺炎などの泌尿器疾患。
- 下痢・便秘・過敏性腸症候群などの消化器疾患。
- 月経不調・帯下・不妊・下腹部痛などの婦人科疾患。
- 腎虚による夜尿症・遺精・尿漏れ。
- 浮腫・下肢のだるさ・下焦の冷え。
使用上の注意
- 寒熱・虚実の鑑別を明確に行うことが重要。
- 湿熱証に温補薬を用いると悪化するため注意する。
- 虚証には補腎・温陽薬、実証には清熱・利湿薬を使い分ける。
- 長期治療では、健脾・利水・補腎を併用して下焦機能を安定化する。
- 泌尿器・生殖器の感染症などでは、西洋医学的治療との併用が望ましい。
まとめ
理下焦法は、下焦の気機・水液代謝・排泄機能を調整して、尿・便・生殖機能を整える治法である。 代表方剤は竜胆瀉肝湯・八正散・真武湯・腎気丸などで、証に応じて清熱・利湿・温補・温陽を使い分ける。 下焦の調理は身体の根本である「腎」と深く関係し、全身の水液代謝と生殖機能を支える重要な治法である。
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