乙字湯（おつじとう）

📘 基本情報

項目	内容
方剤名	乙字湯（おつじとう）
出典	『万病回春』
分類	潤下剤・理気活血剤
保険適用エキス製剤	乙字湯（ツムラ24、クラシエ24など）
構成生薬	当帰・柴胡・升麻・甘草・大黄・黄芩

🧭 方意（効能と主治）

区分	内容
効能	清熱瀉火、理気活血、潤腸通便。
主治	痔疾（特に脱肛・出血・腫痛など）を中心とする、肛門部の炎症・うっ血。 便秘傾向を伴う痔核、脱肛、肛門痛など。
病機	肛門部の気血不和・鬱熱・うっ血による炎症と腫痛。 気滞と血瘀による排便困難や便秘も関与する。
現代的適応	痔核（いぼ痔・切れ痔）、脱肛、肛門周囲炎、直腸炎、便秘など。

🌡 臨床的特徴

観点	内容
使用目標（証）	便秘または排便困難を伴う痔疾。 肛門部の痛み・出血・脱出感。 体力中等度、やや実証寄り。
体質傾向	体力中等度〜やや充実。血行不良や便秘傾向がある人。
舌診	紅または淡紅、やや黄苔。
脈診	弦またはやや実。

💊 構成生薬と作用

生薬名	主要作用
当帰（とうき）	補血活血、潤燥通便。血行を促進し、うっ血を改善。
柴胡（さいこ）	疏肝解鬱、昇陽挙陥。うっ滞した気を巡らせ、脱肛を防ぐ。
升麻（しょうま）	昇陽挙陥、清熱解毒。肛門部の下垂・脱出を改善。
大黄（だいおう）	瀉下通便、清熱解毒。便通を改善し、熱毒を除く。
黄芩（おうごん）	清熱燥湿、瀉火解毒。炎症・出血を鎮める。
甘草（かんぞう）	調和諸薬、緩急止痛。炎症を抑え、全体の作用を調整。

🩺 現代医学的な理解

• 抗炎症作用（痔核・直腸炎の炎症軽減）
• 血流改善・うっ血除去作用
• 整腸・排便促進作用（便通改善）
• 肛門括約筋・直腸の緊張緩和作用
• 自律神経調整（排便リズムの正常化）

⚠️ 使用上の注意

• 大黄を含むため、下痢傾向のある人には不向き。
• 体力虚弱で冷え性が強い場合は慎重に使用。
• 授乳中・妊娠中は大黄による影響に注意。
• 長期連用により電解質異常や便秘依存が起こることがある。

💬 臨床応用例

• 痔核（いぼ痔、出血性痔核）
• 脱肛（排便時に肛門が脱出する）
• 肛門部の腫脹・疼痛
• 直腸炎・肛門周囲炎
• 便秘を伴う排便困難

🌱 類方鑑別

比較方剤	相違点
芎帰膠艾湯	出血傾向が強く、冷えのある痔出血に用いる。
桂枝加芍薬大黄湯	腹部膨満・便秘・下腹部痛が主で、痔症よりも腸管症状が中心。
桃核承気湯	血瘀が強く、実証で便秘・月経異常・下腹部痛を伴う場合。
補中益気湯	脱肛が主体で虚証の場合。便秘や熱症状が少ない。

📖 メモ

• 「乙字」は、原方の分類上の略称で、痔疾を治すことから「痔の方」とも呼ばれる。
• 「気滞・血瘀・熱」の三要素を同時に改善する代表処方。
• 便秘傾向がある痔疾に最も適し、肛門部の炎症・出血・脱出を総合的に改善する。
• 長期的には、血流と排便習慣を整えることで再発防止にも役立つ。