化痰止痛とは

概要

化痰止痛(けたんしつう)とは、痰の停滞によって生じた疼痛を緩解する治法である。 「痰」は単に喀出される粘液だけでなく、広義には体内で気血や津液が滞って生じる濁重・粘滞な病理産物を指す。 痰が経絡・気道・脈絡・臓腑に停滞すると、気血の運行が妨げられ、胸痛・頭痛・脇痛・肢体痛などの疼痛を引き起こす。 このような場合、単に止痛するだけでは根本治療にならず、痰を化して通絡を回復させる必要がある。

したがって、化痰止痛法は主に痰濁内阻・痰気互結・痰瘀互結などの病機に対して用いられ、 痰を除き、気血を通じさせて痛みを止めることを目的とする。



主な適応症状

  • 胸悶・胸痛・心悸
  • 頭痛・頭重感・眩暈
  • 脇痛・胃脘部の膨満や張痛
  • 咽中の異物感(梅核気)
  • 四肢の痺れや重だるさ
  • 痰多・咳嗽・喀痰が粘稠
  • 舌苔は白膩または黄膩・脈滑または弦滑

これらの症状は、主に痰濁が気血の運行を阻むことで生じる疼痛・閉塞感であり、 痰が消えれば痛みも次第に軽快する。



主な病機

  • 痰気互結痰と気の停滞が互いに障害し、胸悶・咽喉閉塞感・脇痛を生じる。
  • 痰瘀互結:痰濁と瘀血が絡脈に停滞し、固定痛や刺痛を呈する。
  • 痰濁閉阻心脈:痰が心脈を塞ぎ、胸痛・動悸・重苦しさを引き起こす。
  • 痰阻経絡:痰濁が経脈を塞いで肢体の痺痛を生じる。

痰が停滞すると「気行則血行、気滞則痛」という原則により、気血の通行が妨げられ、疼痛やしびれを生じる。 そのため、理気・化痰・活血を兼ねて治療するのが原則である。



主な配合法

  • 化痰止痛+理気痰気互結による胸脇脹痛(例:半夏厚朴湯)。
  • 化痰止痛+活血痰瘀互結による胸痛・頭痛・脇痛(例:血府逐瘀湯+二陳湯)。
  • 化痰止痛+開竅:痰濁閉阻による意識障害・昏厥(例:至宝丹蘇合香丸)。
  • 化痰止痛+利気化湿:痰湿阻滞による胸悶・胃脘痛(例:平胃散+二陳湯)。
  • 化痰止痛+熄風痰阻経絡による眩暈・頭痛(例:半夏白朮天麻湯)。


代表的な方剤

  • 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):行気化痰・降逆止痛。痰気互結による咽中異物感・胸脇脹痛に。
  • 二陳湯(にちんとう):燥湿化痰・理気和中。痰湿阻滞による胸悶・頭重・胃脘不快に。
  • 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):化痰熄風・健脾止痛。痰湿による眩暈・頭痛に。
  • 温胆湯(うんたんとう):理気化痰・清胆和胃。痰熱による胸脇痛・不眠・不安に。
  • 血府逐瘀湯(けっぷちくおとう):活血祛瘀・行気止痛。痰瘀互結による胸痛・頭痛に応用可。


臨床でのポイント

  • 痰による疼痛は「重く・鈍く・しつこい」痛みを呈することが多い。
  • 痰滞は多くの場合、気滞湿滞瘀血を伴うため、併治が必要。
  • 脾虚湿盛が痰生の根本であるため、健脾化湿を常に考慮する。
  • 胸痛では心血瘀阻との鑑別を要し、寒凝や瘀血優勢なら温経活血法を併用する。
  • 慢性頭痛や神経痛では、痰濁が脈絡にこもる「痰阻絡脈証」として考えるとよい。


まとめ

化痰止痛法は、痰濁が気血や経絡を阻滞して生じる疼痛を、痰を除いて通絡させることで緩解する治法である。 臨床では、理気活血健脾化湿などを兼ねて応用し、半夏厚朴湯二陳湯・温胆湯・半夏白朮天麻湯などが代表方剤である。 慢性的な疼痛・胸脇不快・頭重感・咽喉異物感など、痰の存在が疑われる場合に有効である。

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