【概要】
引気下行とは、上逆・上衝した気を下方へ導き(引気)、本来の下降ルートへ回復させる(下行)治法である。
気は本来、肺は粛降、胃は和降、腎は納気を主るが、これらの機能が失調すると気は上に逆上し、咳嗽・喘鳴・頭暈・胸悶・煩躁・不眠などを生じる。
本法は単に「降ろす」だけでなく、下焦・腎・足部などを利用して気の帰路を示す点に特徴があり、 気逆・浮越・虚陽上浮など、上実下虚の病態に特に重要となる。
主な適応症状
- 気逆による咳嗽・喘鳴・息切れ
- 胸悶・動悸・上衝感
- 頭暈・のぼせ・顔面紅潮
- 不安感・煩躁・不眠
- 下半身の冷えや虚弱を伴う症状
主な病機
- 気逆上衝:肺気・胃気・肝気が下降できず上逆。
- 腎不納気:腎の把握力低下により気が浮上。
- 虚陽上浮:下虚により陽気が上に浮く。
- 気機昇降失調:上下の交通が断たれた状態。
- 上実下虚:上部に症状集中、下部は虚寒。
気の病変では「昇降出入」の失調が核心であり、 引気下行は気の方向性そのものを正す治法といえる。
主な配合法
- 引気下行+降逆:咳嗽・嘔逆・気逆が顕著な場合。
- 引気下行+補腎:腎虚・納気不利を伴うケース。
- 引気下行+清熱:上部に熱象を伴う場合。
- 引気下行+安神:煩躁・不眠・動悸がある場合。
- 引気下行+温下焦:下半身冷え・虚寒を伴う場合。
代表的な方剤
- 蘇子降気湯:気逆を下ろし、腎に納める。
- 真武湯 加減:下虚寒を温めつつ気を引き下げる。
- 六味地黄丸 加味:腎虚による虚陽上浮に。
- 桂枝加竜骨牡蛎湯:気の浮越・動悸・不安感に。
- 鎮肝熄風湯:肝陽上亢を鎮め下行させる。
臨床でのポイント
- 単純な「降気」と「引気下行」を区別する。
- 下焦の虚実を必ず評価する。
- 補腎を伴わないと再発しやすい。
- 上部症状だけを見て清降しすぎない。
- 足冷・腰膝軟弱は重要な判断材料。
まとめ
引気下行法は、上に逆上・浮越した気を、下焦・腎へと導き、全身の昇降バランスを回復する治法である。
咳嗽・喘鳴・動悸・不眠・のぼせといった症状において、
背後にある上実下虚・腎不納気を見抜くことが、本法活用の要点となる。
0 件のコメント:
コメントを投稿