📘 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 方剤名 | 桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがん か よくいにん) |
| 出典 / 由来 | 古典方・桂枝茯苓丸を基に、利水・除湿作用のある薏苡仁(よくいにん)を加味した応用方。臨床で血瘀(おけつ)に湿邪が加わる症候に用いられる。 |
| 分類 | 活血化瘀・利水除湿・理血調経剤(瘀血に湿邪が加わる虚実錯雑証向け) |
| 保険適用エキス製剤 | 桂枝茯苓丸は保険適用製剤があるが、 「加薏苡仁」などの加味型は製薬メーカーや調剤で差があり、エキス製剤としては個別製品または医師処方で調合されることが多い(製品有無は薬局・医療機関により異なる)。 |
| 代表的構成生薬(基本) | 桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬 + 薏苡仁(加味) |
🧭 方意(総合的な働き・主治)
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 総合効能 | 活血化瘀(血行改善)・理気止痛・利水除湿・調経(婦人科症状の改善)。瘀血(うっ血)と体内の湿(むくみ・重だるさ)が合わさった症候を改善する。 |
| 主治(臨床的適応) | 月経不順・月経痛・月経量異常(瘀血+湿)・下腹部の張りや圧痛・おりものの異常・顔や下肢のむくみ・慢性の下腹部抵抗感・冷えのぼせ・肌のくすみ・ニキビや湿疹で瘀血と湿が関係するもの。 |
| 病機(中医学的説明) | 血行不良(瘀血)が体内に存在し、そこへ湿邪(体内の余分な水分・重だるさ)が加わって気機の流れがさらに阻滞する。桂枝茯苓丸の「活血・行気」に薏苡仁の「利水除湿」を組み合わせ、瘀と湿を同時に改善する。 |
🌡 臨床的特徴(詳述)
| 観点 | 内容(より詳しい描写) |
|---|---|
| 典型的訴え | 月経のとき下腹部が張って硬く、痛みが強い(坐位や圧で悪化)/月経の量は不安定で塊が出ることがある/おりものが多く重だるい/顔や下肢にむくみがあり、体が重い/肌の色がくすみやすく、しみや吹き出物が出やすい。 |
| 随伴症状 | 肩こり・頭重感・のぼせと冷えが混在する感覚・疲労感・便通不良(便が固く下腹が張る)・尿量減少や尿が混濁することもある。 |
| 舌脈所見 | 舌:暗紅〜紫舌(瘀斑・瘀点が見えることあり)、苔はやや厚めか白っぽい(湿の徴候)。 脈:渋(濁)または弦、やや緩めで沈ぎることがある。 |
💊 構成生薬と各生薬の役割(詳細)
| 生薬 | 主たる作用(臨床的意味) |
|---|---|
| 桂枝 | 温通経絡・行気・軽度の発汗作用。血行を良くして瘀血改善の下地を作る。体を温めて気の巡りを促進。 |
| 茯苓 | 利水渗湿・健脾。体内の余分な水分をはく離してむくみや重だるさを軽減し、脾の働きを補うことで血の生化(血を作る力)を助ける。 |
| 牡丹皮 | 活血・清熱・利湿。血行を促し瘀血の剥離を助ける。のぼせや熱感を鎮める働きもある。 |
| 桃仁 | 破血行瘀(瘀血を壊して流す)、潤腸通便。血の滞りを除き、下腹部の痛み・塊(お血)を改善する。 |
| 芍薬 | 養血柔肝・緩急止痛。筋の緊張を和らげ、疼痛(特に月経痛)を軽減する。 |
| 薏苡仁(加味) | 利水除湿・健脾・消腫。湿による重だるさやむくみ、湿疹・膿疱状の皮膚病変に対して有効。瘀血改善の桂枝茯苓丸と併せて「瘀+湿」の併存を的確に治す。 |
🩺 現代医学的な解釈(やや詳しく)
- 末梢血流改善作用:桃仁・牡丹皮などが血行を促し、局所の血流障害を改善することで疼痛を軽減する。
- 利尿・除湿作用:薏苡仁・茯苓により体内余分水分の代謝が促され、浮腫や体重感の改善に寄与する。
- 抗炎症作用:牡丹皮・桃仁・芍薬には抗炎症・抗酸化作用が認められ、慢性炎症に関連する症状(慢性子宮内膜症など)に補助的効果が期待される。
- ホルモン調節・自律神経調整:活血化瘀による子宮周辺の循環改善は月経調整やPMSの改善に繋がり、自律神経症状(情緒不安・頭重)も軽減されやすい。
⚠️ 注意点(重要)
- 妊婦への投与:桃仁・桃核系の活血薬を含むため、妊娠中(特に妊娠初期〜中期)は流産の恐れを避けるため原則禁忌または慎重投与。処方は産科医・漢方専門医と要相談。
- 出血傾向・抗凝固薬との併用:活血薬は抗凝固薬(ワルファリン等)と相互作用しうるため、出血傾向のある患者や抗凝固薬服用中は医師に相談。
- 腎機能・心不全でのむくみ:利水作用があるが、心不全や重度腎障害での浮腫は基礎疾患の管理が優先。自己判断で使用しない。
- 消化器症状:一部に下痢や腹部不快を起こすことがあるため、使用中は様子を見る。胃腸虚弱な人は少量から。
- 長期連用時の注意:必要に応じて定期的に血液検査や臨床観察を行う(特に出血、電解質、腎機能など)。
💬 臨床応用例(実務的な使い方)
- 月経痛で下腹が張って硬く、塊が出ることがある女性に対して第一選択の一つとして用いる(湿が強ければ薏苡仁を加える)。
- おりものが多く粘稠で下腹の重だるさを伴う月経不順。
- 顔面や下肢のむくみ、体が重い・だるいが、瘀血所見(舌紫・瘀点)もある場合。
- 慢性の下腹部不快感・痞塊感(子宮筋腫・子宮内膜症の補助療法としての使用例が臨床に存在するが、基礎病変の鑑別と連携が重要)。
🔧 臨床での加減・派生(実践ポイント)
- 湿がより強ければ薏苡仁を増量、もしくは苡仁+茯苓を強めて利水作用を高める。
- 瘀血が極めて強く便秘や実熱があれば桃仁・紅花を増やすか、桃核承気湯系の併用を検討する(ただし体力・熱証を考慮)。
- 冷え(寒証)が強ければ桂枝や乾姜など温経薬を補う。
- 不眠や情緒不安が主であれば竜骨牡蛎・酸棗仁等の安神薬を加えることがある(適応に応じて)。
📖 補足メモ(臨床で知っておくと便利な点)
- 桂枝茯苓丸自体は「血の道症」や瘀血を伴う婦人科症状に古くから適用される代表方で、薏苡仁を加えることで「瘀+湿(おけつ+しつ)」という混合パターンに対応しやすくなる。
- 一般に即効性が期待される場合もあるが、慢性化した瘀血では数週間〜数か月の服用で体質改善を図ることが多い(医師の管理下で)。
- 漢方治療は個々の体質(証)に合わせることが最も効果的。自己判断で長期服用せず、医師・薬剤師と相談することを推奨。
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