概要
行気解鬱（こうきげうつ）とは、気の滞り（気鬱）を疏通させ、鬱滞による諸症を解消する治法である。 中医学では「気は血の帥」とされ、気の流れが停滞すると、臓腑・経絡の機能が失調し、胸脇脹満・脘腹不快・咽喉異物感・抑鬱・月経不調などが生じる。 行気解鬱法は、理気薬を用いて気機を調暢させ、気鬱を解き、情志や臓腑の疏泄を回復させることを目的とする。
主に肝気鬱結・脾胃気滞・気滞痰鬱・気滞血瘀などに応用され、情志失調や消化器不調、更年期症候群などにも広く用いられる。
主な適応症状
- 胸脇・脘腹の脹満や張痛
- 胸悶・ため息・抑鬱感・易怒
- 食欲不振・呑酸・嘔気・便秘
- 咽喉に梅核気（異物感）
- 月経不順・乳房脹痛・経行不暢
- 舌苔薄白・脈弦
これらは多くの場合、肝気鬱結により気機が疏泄されず、脾胃や気血の運行が阻まれた結果に生じる。
主な病機
- 肝失疏泄：情志不遂やストレスにより肝気が鬱結し、胸脇・少腹の脹満や情志抑鬱を生じる。
- 気滞犯胃：気鬱が胃を犯して、脘腹膨満・食欲不振・呑酸を呈する。
- 気鬱及血：気滞が長引くと血行が阻まれ、痛経・乳房脹痛・顔色くすみを生じる。
- 気滞生痰：気機不暢により津液が停滞し、梅核気や咽中異物感を引き起こす。
治療の要点は、疏肝理気を中心に、気滞の部位・性質に応じて化痰・活血・健脾などを併用することである。
主な配合法
- 行気解鬱＋疏肝：情志抑鬱・胸脇脹満（例：柴胡疎肝湯、逍遥散）。
- 行気解鬱＋理中：気滞による脘腹脹満・消化不良（例：香蘇散、枳朮湯）。
- 行気解鬱＋化痰：梅核気・咽中異物感（例：半夏厚朴湯）。
- 行気解鬱＋活血：気滞血瘀による痛経・胸痛（例：血府逐瘀湯、膈下逐瘀湯）。
- 行気解鬱＋調経：肝鬱気滞による月経不順（例：逍遥散、加味逍遥散）。
- 行気解鬱＋安神：情志鬱結による不眠・焦燥（例：加味帰脾湯）。
代表的な方剤
- 柴胡疎肝湯（さいこそかんとう）：疏肝理気・行気止痛。胸脇脹満・抑鬱・食欲不振に。
- 逍遥散（しょうようさん）：疏肝健脾・養血調経。肝気鬱結・情志不安・月経不順に。
- 香蘇散（こうそさん）：理気解鬱・和胃解表。気鬱感冒や気滞による食欲不振に。
- 半夏厚朴湯（はんげこうぼくとう）：行気化痰・降逆止咳。梅核気・咽喉異物感に。
- 血府逐瘀湯（けっぷちくおとう）：行気活血・祛瘀止痛。気滞血瘀による胸痛・頭痛に。
- 加味逍遙散（かみしょうようさん）：疏肝清熱・調経止痛。肝鬱化火・情緒不安に。
臨床でのポイント
- 肝気鬱結が中心の場合が多く、疏肝理気薬を基本とする。
- 気鬱が長引くと血瘀・痰湿を伴うため、活血・化痰を併用する。
- 情志失調（ストレス・抑鬱）では、加味逍遥散・柴胡疎肝湯が適する。
- 脾胃の気滞には、香附子・陳皮・枳実などの理気薬を配合する。
- 女性では月経周期の乱れ・乳房脹痛などにも応用される。
まとめ
行気解鬱法は、気の鬱滞を疏通させ、臓腑の機能と情志の調和を回復する基本治法である。 肝気鬱結・脾胃気滞・気鬱痰阻・気滞血瘀などに広く応用され、 代表方剤には柴胡疎肝湯・逍遥散・半夏厚朴湯・香蘇散などがある。 疏肝理気を中心に、気滞の性質や随伴病理に応じた配合法が臨床上の要点である。
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