概要
解痙鎮痛（かいけいちんつう）とは、筋肉・経絡・内臓などのけいれん（痙攣）や収縮による疼痛を緩和する治法である。 中医学では、けいれんや攣急（れんきゅう：筋肉の強直・引きつり・腹部の張痛）は、 主に肝風内動・気血不和・寒邪収引・陰血不足などによって生じると考えられる。
解痙鎮痛法は、これらの原因を取り除き、経絡を疏通し、気血を調和させて筋肉や臓腑のけいれん・疼痛を鎮めることを目的とする。
主な適応症状
- 筋肉のひきつり・こむら返り・四肢の痙攣
- 腹部の攣急痛（疝痛・胃痛・腹痛）
- 月経痛・産後の腹痛
- 神経痛・偏頭痛・顔面けいれん
- 関節の強直・手足の攣縮
- 舌質淡または紅、苔薄白または薄黄、脈弦・細など
これらは、経絡の不通・肝風内動・陰血不足・寒邪収引・気滞血瘀などによって引き起こされる。
主な病機
- 肝風内動：肝血不足または熱極生風により筋が養われず、痙攣・振戦を生じる。
- 寒邪収引：寒が経絡に侵入し、筋肉が拘急して痛む。
- 気滞血瘀：気血運行が阻滞して筋肉や臓腑のけいれん性疼痛を起こす。
- 陰血不足：筋脈が滋養されず、弛緩やけいれんを繰り返す。
- 湿痰阻滞：経絡閉塞し、しびれや攣急を伴う。
治療原則は、風を鎮め、寒を散じ、血を養い、経を通じてけいれんや痛みを止めることである。
主な配合法
- 解痙鎮痛＋平肝熄風：肝風内動による手足の震え・けいれん（例：羚羊角湯・鎮肝熄風湯）。
- 解痙鎮痛＋温経散寒：寒邪による腹痛・月経痛・腰痛（例：当帰四逆湯・呉茱萸湯）。
- 解痙鎮痛＋活血化瘀：瘀血による固定性の刺痛や拘急（例：芎帰膠艾湯・血府逐瘀湯）。
- 解痙鎮痛＋養血柔肝：肝血不足による筋肉の引きつり・こむら返り（例：芍薬甘草湯・四物湯）。
- 解痙鎮痛＋理気止痛：気滞による脇痛・胃痛・疝痛（例：柴胡疎肝湯・天台烏薬散）。
代表的な方剤
- 芍薬甘草湯（しゃくやくかんぞうとう）：緩急止痛・解痙。筋肉のひきつり、こむら返りに用いる。
- 当帰芍薬散（とうきしゃくやくさん）：養血柔肝・緩急止痛。月経痛・妊娠中の腹痛・冷えによる攣急に用いる。
- 天台烏薬散（てんだいうやくさん）：温中散寒・行気止痛。寒邪による腹痛・疝痛に適す。
- 呉茱萸湯（ごしゅゆとう）：温中降逆・散寒止痛。胃寒による胃痛・頭痛・嘔気に用いる。
- 四逆散（しぎゃくさん）：疏肝理気・緩急止痛。肝気鬱結による胸脇痛・腹痛に応用。
- 柴胡疎肝湯（さいこそかんとう）：疏肝解鬱・行気止痛。ストレス性胃痛や月経痛に有効。
- 鎮肝熄風湯（ちんかんそくふうとう）：平肝潜陽・息風止痙。肝陽上亢によるけいれん・振戦に用いる。
臨床でのポイント
- けいれんや痛みが「攣急」「引きつり」と表現される場合に重視される治法である。
- 肝経の失調（肝気鬱結・肝血不足）が中心にあることが多い。
- 寒が強ければ温通、熱があれば清熱、血虚があれば養血を併用する。
- 慢性のこむら返りや婦人腹痛には「養血柔肝＋緩急止痛」の組み合わせが効果的。
- 痙攣性疼痛では「気血不通」と「肝風動」のいずれが主体かを弁別する。
まとめ
解痙鎮痛法は、筋脈や臓腑のけいれん・攣急・疼痛を緩和する治法であり、 主として芍薬甘草湯・当帰芍薬散・天台烏薬散・呉茱萸湯・柴胡疎肝湯などが用いられる。 その原理は「通じて則ち止痛」「養して則ち弛緩」にあり、 風・寒・瘀・虚のいずれが原因かを明確にして適切な配合法を選ぶことが臨床の要点である。
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