概要
固渋(こじゅう)とは、体内からの津液・精・気・血などの漏出を防ぎ、体内の正気を保持する治法である。 「固」はしっかりと守る、「渋」は流出を止めるという意味をもち、 主に肺・脾・腎の虚損によって生じる漏出性の病証に対して用いられる。
具体的には、自汗・盗汗・遺精・滑精・尿漏・遺尿・崩漏・慢性下痢など、 「止まるべきものが止まらない」状態を改善する。 その際、固渋は単独で用いるよりも、しばしば補益法(補気・補腎・養陰など)と併用されることが多い。 なぜなら、根本には「虚」が存在し、虚を補わなければ、渋薬だけでは実効が得られないからである。
主な適応症状
- 自汗・盗汗・多汗
- 遺精・滑精・早漏
- 尿漏・遺尿・頻尿
- 慢性下痢・五更瀉(夜明けごろの下痢)
- 月経過多・崩漏・不正出血
- 慢性の気虚による虚脱傾向・出血傾向
固渋法は、気虚不固・腎虚不固・陰虚失固などの「虚」による漏出性の証に適応する。
主な病機
- 気虚不固:気の統摂・固摂作用の低下により、自汗・出血・久瀉を生じる(例:脾肺気虚)。
- 腎虚不固:腎気不足により、精・尿を固摂できず、遺精・遺尿・尿漏などを生じる。
- 陰虚失固:陰液不足により、虚熱が動いて精や汗を漏らす(例:盗汗・滑精)。
- 脾腎両虚:脾の運化不健と腎の封蔵失調が併発し、慢性下痢・五更瀉を生じる。
このように、固渋法は「虚を補いながら漏れを止める」ことを基本原則とする。
主な配合法
- 固渋+補気:気虚による自汗・久瀉(例:牡蛎散、玉屏風散)。
- 固渋+補腎:腎虚による遺精・滑精・遺尿(例:金鎖固精丸、縮泉丸)。
- 固渋+温陽:腎陽虚による五更瀉・尿漏(例:四神丸)。
- 固渋+養陰:陰虚盗汗(例:当帰六黄湯)。
- 固渋+止血:脾不統血による崩漏(例:固衝湯)。
- 固渋+益精:精関不固・精虚滑脱(例:金鎖固精丸合六味丸)。
代表的な方剤
- 牡蛎散(ぼれいさん):気虚による自汗・盗汗を治す。収斂固表の代表方。
- 玉屏風散(ぎょくへいふうさん):衛気虚弱による自汗・感冒しやすい体質に。
- 金鎖固精丸(きんさこせいがん):腎虚による遺精・滑精を治す代表方。
- 縮泉丸(しゅくせんがん):腎虚による遺尿・頻尿を治す。
- 固衝湯(こしょうとう):脾腎虚損による崩漏・不正出血を治す。
- 四神丸(ししんがん):腎陽虚による五更瀉を治す。
- 当帰六黄湯(とうきろくおうとう):陰虚火旺による盗汗・自汗を治す。
臨床でのポイント
- 固渋は「虚に伴う漏出」を治す法であり、実証による分泌や出血には用いない。
- 表虚(衛気不固)には収斂固表薬、腎虚には収精固腎薬、脾虚には収瀉固脾薬を選ぶ。
- 固渋薬は「止める」性質をもつため、外邪が残るときは用いてはならない。邪を閉じ込めてしまうおそれがある。
- 慢性疾患・体質改善には、補益薬と併用して正気を充実させることが重要。
- 虚熱・陰虚盗汗などでは、清熱・養陰の配合を忘れない。
- 「虚を補い、漏れを止め、正を固める」が治療の三原則。
まとめ
固渋とは、虚損による体内物質の漏出を防ぎ、正気を固める治法である。 主に気・腎・陰の不足により、汗・精・尿・血・便などが止まらない状態を改善する。 その基本方針は「補虚為本、固渋為標」であり、 代表方剤には牡蛎散・金鎖固精丸・縮泉丸・固衝湯などがある。 固渋は「閉じる」性質をもつため、外邪や実熱があるときには慎用し、 虚が本であることを常に念頭に置いて応用する。
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