【概要】
理気止咳とは、気機の鬱滞を疏通し、肺気の宣降を回復させることで咳嗽を鎮める治法である。
咳嗽の中でも、情志失調・気滞・気逆を主因とするものに適し、痰や熱が主因でない「気の失調」による咳を対象とする。
特に肝気鬱結・気逆犯肺・胸脇気滞などが関与する場合、咳は情緒変動や緊張で増悪しやすく、胸苦しさ・咽のつかえ・ため息などを伴うことが多い。
本法は、まず気を整えることを主眼とし、結果として咳嗽を自然に鎮める点に特徴がある。
主な適応症状
- 咳が出たり止まったりする、発作性の咳
- 緊張・ストレスで悪化する咳嗽
- 痰が少ない、または無痰の乾咳
- 胸悶・胸脇の張り・ため息
- 咽のつかえ感・声の詰まり
これらは肺気の宣降失調を背景とした気滞・気逆の典型的表現である。
主な病機
- 肝気鬱結：情志不調により気機が鬱滞し、肺の宣降を妨げる。
- 気逆犯肺：肝胃の気逆が上衝し、咳嗽を生じる。
- 胸中気滞：胸郭の気が塞がれ、呼吸と発声が不利になる。
- 肺気失宣：外邪がなくても気の巡りが悪く咳が出る。
治療は疏肝理気・降逆・宣肺を中心とし、必要に応じて化痰・清熱・養陰を加える。
主な配合法
代表的な方剤
- 半夏厚朴湯：気滞・咽中異物感・情志性の咳に。
- 蘇子降気湯：気逆を伴う咳嗽・胸悶。
- 柴朴湯：肝気鬱結と肺気不利が並存する場合。
- 加味逍遙散：情志不安を背景とした慢性咳。
- 旋覆代赭石湯：気逆が強く上衝する咳嗽。
臨床でのポイント
- 痰や熱が少ない咳ほど理気を重視する。
- 情緒との関連性を丁寧に問診する。
- 強い鎮咳薬よりも気機調整が有効なことが多い。
- 長期化した咳には心理的負荷の軽減も重要。
- 補肺益腎・化痰法との鑑別が要点。
まとめ
理気止咳法は、気の鬱滞や逆行を整えることで、肺気の宣降を回復し咳嗽を鎮める治法である。
情志失調や胸中気滞を背景とする咳では、清熱・化痰よりも理気を先行させることが治療の鍵となる。
心身一体の視点から慢性咳嗽を捉える、臨床価値の高い治法である。
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