概要
臓腑虚弱(ぞうふきょじゃく)とは、五臓六腑の機能が低下し、気血・陰陽の不足によって生理活動が衰退した状態を指す。 長期の疾病・過労・加齢・不養生などにより臓腑が損傷し、機能低下が生じる。 虚弱の性質は「虚・寒・衰」であり、病邪がなくても機能が不十分であることが多い。 主に脾・腎・心・肺・肝などの虚損が中心となり、個々の臓腑に応じた特徴を示す。
主な適応症状
- 疲労倦怠・気力低下・息切れ
- 食欲不振・腹満・便溏
- 顔色萎黄・血色不良・めまい
- 寒がり・四肢冷・腰膝だるさ
- 動悸・不眠・健忘
- 月経不順・精力減退
- 舌淡・苔薄白、脈沈細または虚弱
主な病機
- 久病体虚 → 気血耗損 → 臓腑機能減退
- 過労・思慮過度 → 脾気損傷 → 気血生化不足
- 房事過多・加齢 → 腎精虚損 → 陽衰陰虧
- 久病入絡 → 臓腑失養 → 精神・代謝低下
- 先天不足または体質虚弱 → 各臓腑の機能不振
治療原則
- 補益正気・調理臓腑・扶本培元を基本とする。
- 脾虚には健脾益気、腎虚には補腎益精を行う。
- 心虚には養心安神、肺虚には益気養陰を施す。
- 肝血不足には養血柔肝、気血両虚には双補を行う。
- 虚寒を伴う場合は温補陽気、陰虚には滋陰補血を加える。
主な配合法
- 臓腑虚弱+健脾益気:脾虚による食欲不振・倦怠(例:四君子湯、六君子湯)。
- 臓腑虚弱+補腎填精:腎精不足・腰膝軟弱(例:八味地黄丸、六味地黄丸)。
- 臓腑虚弱+養血安神:心血虚・不眠・健忘(例:酸棗仁湯、帰脾湯)。
- 臓腑虚弱+補気養血:気血両虚・顔色不良(例:十全大補湯)。
- 臓腑虚弱+温陽扶正:陽虚・冷感・四肢厥冷(例:参附湯、右帰丸)。
代表的な方剤
- 四君子湯(しくんしとう):脾胃気虚による倦怠・食欲不振。
- 帰脾湯(きひとう):心脾両虚による不眠・健忘・顔色不良。
- 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):気血両虚・久病体弱。
- 八味地黄丸(はちみじおうがん):腎陽虚による腰膝冷痛・排尿異常。
- 六味地黄丸(ろくみじおうがん):腎陰虚による潮熱・口乾・倦怠。
- 右帰丸(うきがん):腎陽虚損・畏寒・精力減退。
臨床でのポイント
- 臓腑虚弱は慢性疾患・加齢・過労後に多く見られる。
- 気・血・陰・陽のどの虚が中心かを明確に見極めることが重要。
- 急性期よりも回復期・体力低下期の補養が要となる。
- 補益薬の使用は、滞や熱化を防ぐために理気・活血薬を適度に併用する。
- 体質改善・再発防止の観点から、長期的な調理と生活養生を重視する。
まとめ
臓腑虚弱は、臓腑機能の衰退による気血陰陽の不足と代謝低下を特徴とする。 補益正気・健脾益腎・養心安神などを組み合わせて、根本から機能を回復させる。 四君子湯・帰脾湯・十全大補湯・八味地黄丸などが代表方であり、 体質虚弱や慢性疲労・高齢者の体力低下などに広く応用される。
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