補腎固精とは

概要

補腎固精(ほじんこせい)は、腎気を補い、腎の固摂機能を強化して精の漏れを防ぐ治法である。 腎は「蔵精の府」であり、生命の根本である精を貯蔵し、またその固摂(こせつ:漏れを防ぐ)をつかさどる。 腎虚、特に腎気虚や腎陽虚になるとこの固摂作用が弱まり、精が漏出してしまい、 遺精・滑精・早泄・夢精・尿頻・遺尿などの症状を呈する。

よって補腎固精法は、腎虚による精関不固を治す基本的な治法であり、 「補腎壮陽」「滋陰固精」などと併用して使われることも多い。



主な適応症状

  • 遺精・夢精・滑精
  • 早泄・陽痿
  • 腰膝酸軟・倦怠・頭暈
  • 尿頻・遺尿・夜尿
  • 顔色蒼白・寒がり・舌淡・脈沈細

特に腎気不固による精関失司の証に用いられる。 精は単に生殖の精のみならず、広く「腎精(生命エネルギー)」を指し、 補腎固精法は生殖系疾患だけでなく、虚弱体質・老衰・健忘・耳鳴などにも応用される。



主な病機

  • 腎気虚 → 精関不固 → 遺精・滑精
  • 腎陽虚 → 命門火衰 → 精寒滑泄
  • 腎陰虚 → 虚火擾動 → 夢精・遺精
  • 心腎不交 → 心火下擾腎 → 夢遺

よって、補腎固精法は単に精を止めるだけでなく、 虚の性質(陽虚・陰虚・気虚)を弁別して、補法を調整することが重要である。



主な配合法

  • 補腎固精+補陽腎陽虚・滑精・冷感(例:右帰丸、金匱腎気丸)。
  • 補腎固精+滋陰腎陰虚・夢遺・咽乾(例:左帰丸、六味地黄丸)。
  • 補腎固精+安神心腎不交・心火擾動による夢遺(例:天王補心丹、交泰丸)。
  • 補腎固精+益気気虚による固摂失調・遺精(例:参茸固本丸)。
  • 補腎固精+収渋:遺尿・滑精・虚寒型(例:縮泉丸、金鎖固精丸)。


代表的な方剤

  • 金鎖固精丸(きんさこせいがん):腎気不固による遺精・滑精。
  • 縮泉丸(しゅくせんがん):腎虚・膀胱失約による遺尿・頻尿。
  • 右帰丸(うきがん):腎陽虚・精寒滑精・陽痿。
  • 左帰丸(さきがん):腎陰虚・夢遺・遺精。
  • 金匱腎気丸(きんきじんきがん):腎気虚弱・固摂不固・遺精。
  • 交泰丸(こうたいがん):心腎不交による夢遺・不眠。


臨床でのポイント

  • 夢精・滑精・早泄などは「腎気虚・固摂不固」が基本。
  • 腎陽虚タイプ:腰冷・尿清長・寒感 → 右帰丸・縮泉丸を用いる。
  • 腎陰虚タイプ:口乾・咽乾・煩熱 → 左帰丸・金鎖固精丸を用いる。
  • 心腎不交タイプ:不眠・夢多 → 交泰丸・天王補心丹を用いる。
  • 虚が深い場合は「補腎」だけでなく「助陽」「滋陰」「収渋」などを組み合わせる。


まとめ

補腎固精法は、腎虚による精関不固(遺精・滑精・夢精・遺尿)を治す基本の治法である。 腎の精を補い、その固摂力を回復することで、精・尿の漏出を防ぎ、生命力を保つ。 代表方剤には金鎖固精丸・縮泉丸・右帰丸・左帰丸・交泰丸などがある。

0 件のコメント:

コメントを投稿