補中陽とは

■ 意義

補中陽とは、身体の中心である「中焦（脾胃）」を補い、その内在する陽気を温めて機能を高める治法です。
中陽（脾胃の陽気）が不足すると、飲食物の消化・吸収が低下し、気血の生成不足や水湿の停滞が生じます。
そのため、脾胃を補い温め、気機の昇提と運化機能を回復させることを目的とします。

■ 適応症（主治）

• 食欲不振・胃もたれ・腹満・下痢
• 倦怠無力・気力低下・声に力がない
• 四肢の冷え・寒がり・冷えによる腹痛
• 慢性病後の虚弱・内臓下垂（胃下垂・子宮脱・脱肛など）
• 慢性下痢、浮腫、冷え症
• 脾胃虚寒・中気不足による消化機能低下

■ 病機背景

• 脾胃虚弱 → 気血生化不足 → 全身の陽気低下
• 寒邪侵入 → 中陽損傷 → 冷え・水湿停滞
• 久病・慢性疲労 → 気虚・陽虚の進行
• 不適切な飲食・過労・ストレスによる脾気損傷

■ 常用薬物

• 人参、黄耆、白朮、甘草 … 補中益気・健脾
• 乾姜、呉茱萸、附子、肉桂 … 温中散寒・回陽
• 陳皮、半夏、茯苓、生姜、大棗 … 理気和胃・健脾助運
• 升麻、柴胡 … 升提中気（胃下垂・脱肛に）

■ 代表処方

• 補中益気湯（ほちゅうえっきとう）
• 理中湯（りちゅうとう）
• 四君子湯（しくんしとう）
• 真武湯（しんぶとう）— 脾腎陽虚による水湿停滞に
• 小建中湯（しょうけんちゅうとう）— 虚寒の腹痛に

■ 配伍例（応用）

病証	治法方向性
脾胃虚寒	温中散寒・補中益気
中気下陥	補中益気・升提中気
寒湿内停	温陽化湿・健脾利水
久病虚弱	扶正固本・補中回陽

■ まとめ

補中陽とは、脾胃の陽気を補い温めることで、消化吸収と気血生成を強化する治法であり、虚弱体質改善・慢性消化障害・冷え症・下痢・内臓下垂などに有効です。
気虚・陽虚・寒湿の特徴を見極めて処方を選択することが重要です。