概要
安神和中（あんしん わちゅう）は、心神の不安と脾胃の不調を同時に調える治法である。 主として思慮過多・憂慮・心脾両虚・肝気鬱結などにより、心神が乱れ、 同時に中焦の気機が阻滞または虚弱となった状態に用いられる。 「安神」は心を鎮め神を安んじ、「和中」は脾胃を調え中焦の気を順行させることを意味する。
主な適応症状
- 胸脘痞塞・胃のつかえ・食欲不振
- 不眠・多夢・焦燥・不安・驚きやすい
- 心悸亢進・ため息・情緒不安定
- 倦怠・思慮過多による脾弱
- 舌質淡または紅、苔薄白、脈細または弦細
主な病機
- 思慮過多 → 脾気損傷 → 脾失健運 → 食欲不振・倦怠
- 心脾両虚 → 心神失養 → 不眠・不安・健忘
- 肝気鬱結 → 横逆犯胃 → 脘腹痞満・食欲不振
- 気血両虚 → 心神不寧・脾胃虚弱 → 胃脘不快・心悸
主な配合法
- 安神和中＋健脾養心：心脾両虚による不眠・健忘・倦怠（例：帰脾湯）。
- 安神和中＋疏肝解鬱：情志不快・胸脘痞塞・ため息（例：逍遙散、加味逍遙散）。
- 安神和中＋化痰寧心：痰濁上擾による不安・胸悶（例：温胆湯）。
- 安神和中＋益気安神：気虚による心悸・疲労・胃弱（例：人参養栄湯、甘麦大棗湯）。
- 安神和中＋理気和胃：肝胃不和・胸脇脹満・食後不快（例：柴胡疏肝散合香砂六君子湯）。
代表的な方剤
- 帰脾湯（きひとう）：心脾両虚による不眠・健忘・倦怠・食欲不振。
- 加味逍遙散（かみしょうようさん）：肝鬱血虚による不眠・情志不安・胸脇脹痛。
- 温胆湯（うんたんとう）：痰濁内擾による不安・不眠・嘔気・胸悶。
- 人参養栄湯（にんじんようえいとう）：気血両虚による心悸・疲労・食欲不振。
- 甘麦大棗湯（かんばくだいそうとう）：心神不安による情緒不安・驚きやすい。
臨床でのポイント
- 安神和中は、情志による心神不安と脾胃不和を同時に調えることを目的とする。
- 不眠や不安を主とする場合は安神薬（酸棗仁・茯神・遠志）を加える。
- 食欲不振や倦怠が強い場合は健脾益気薬（人参・白朮・炙甘草）を併用する。
- 肝気鬱結を伴う場合は疏肝理気薬（柴胡・香附）を配する。
- 神経性胃腸障害・ストレス性食欲不振・心身症に応用しやすい。
まとめ
安神和中は、心神不安と脾胃不和が併発する状態（不眠・不安・胸脘痞塞・食欲不振など）に対して用いる治法である。 「安神」により情志を鎮め、「和中」により脾胃の昇降を調え、心脾の交通を回復させる。 帰脾湯・加味逍遙散・温胆湯などが代表的な処方である。
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