概要
益血（えきけつ）とは、血虚（けっきょ）によって生じる諸症状に対し、造血を助け、血液を補充する治法である。 「補血法」とも呼ばれ、主に心・肝・脾の血の不足により、顔色蒼白・めまい・動悸・不眠・月経異常などが現れる場合に用いられる。 益血法の基本は、気を補いながら血を養うことで、単に血液を増やすのではなく、 気の推動作用を高めて血の生化を促す点に特徴がある。
中医学では「気は血の帥、血は気の母」とされるため、益血法は多くの場合、補気法と併用される。 主に血虚証・血少証・血枯証などの病態に応用される。
主な適応症状
- 顔色蒼白・唇色淡白・爪の色淡
- めまい・動悸・息切れ
- 不眠・夢が多い・健忘
- 月経量少・閉経・産後の血虚
- 四肢のしびれ・乾燥肌・毛髪の脱落
- 舌淡・脈細弱
これらは、血の生成不足や流通不良により、臓腑・経絡・肌肉への栄養が行き届かないために起こる。
主な病機
- 血虚 → 栄養不足 → 顔色蒼白・めまい・動悸・不眠。
- 血少 → 肌肉・爪髪・経絡の栄養不足 → 皮膚乾燥・爪脆・脱毛。
- 脾虚 → 気血生化不足 → 食欲不振・倦怠感・顔面蒼白。
- 肝血虚 → 眩暈・月経異常・視力減退。
したがって益血法は、造血を促進し、血の量と質を回復させて臓腑や組織の栄養状態を改善することを目的とする。
主な配合法
- 益血＋補気：気血両虚・疲労・顔色不良（例：十全大補湯、人参養栄湯）。
- 益血＋養心安神：心血虚・不眠・健忘（例：帰脾湯、酸棗仁湯）。
- 益血＋調経：血虚月経異常・産後虚弱（例：四物湯、当帰芍薬散）。
- 益血＋養肝：肝血虚・視力減退・筋痙攣（例：加味逍遥散、杞菊地黄丸）。
- 益血＋潤燥：血虚により皮膚乾燥・便秘（例：当帰養血湯）。
代表的な方剤
- 四物湯（しもつとう）：血虚の基本方。養血調経・滋陰活血。
- 当帰芍薬散（とうきしゃくやくさん）：血虚と水滞。補血行気・健脾利水。
- 帰脾湯（きひとう）：気血両虚・心脾不足。不眠・健忘・倦怠。益気補血・養心安神。
- 十全大補湯（じゅうぜんたいほとう）：気血両虚・虚労・疲労倦怠。補気益血・調和陰陽。
- 当帰養血湯（とうきようけつとう）：血虚に伴う乾燥・瘙痒。養血潤燥・調和営衛。
臨床でのポイント
- 益血法は、顔色・舌色・脈象などに血虚の徴候がある場合に選用する。
- 多くの場合、補気薬を併用することで血の生化を助ける。
- 女性では月経・妊娠・出産・授乳などで血を失いやすく、頻用される。
- 過剰な温補や油腻の摂取は、血滞を生じるおそれがあるため注意。
- 慢性疾患・貧血・不眠・皮膚乾燥など、虚弱体質の改善にも応用される。
- 益血と活血のバランスをとることが、瘀血化を防ぐ鍵である。
まとめ
益血は、血虚による諸症に対して血を補い、臓腑・経絡・組織の栄養を回復させる基本治法である。 単に造血を助けるだけでなく、気の作用を高めて血を生化することを重視する。 代表方剤には四物湯・当帰芍薬散・帰脾湯・十全大補湯などがあり、 病機に応じて補気・養心・調経・潤燥などを組み合わせることで、多様な臨床応用が可能である。
0 件のコメント:
コメントを投稿