概要
祛湿(きょしつ)とは、体内や体表に停滞した湿邪を取り除く治法である。 湿は重く粘り、停滞しやすい性質を持つため、気血の運行を妨げ、脾胃や経絡、関節に障害を及ぼす。
祛湿法では、湿邪の性質や部位、寒熱の偏りによって治法を使い分ける。 すなわち、外湿には発散・利湿、内湿には健脾・燥湿・滲湿などを行う。
湿の病変はしばしば長引きやすく、また寒熱・虚実が入り混じるため、治療には弁証の精密さが求められる。
主な適応症状
- 身体倦怠・重だるさ
- 頭重・胸悶・脘腹脹満
- 食欲不振・悪心
- 浮腫・小便不利・下痢
- 関節の重痛・麻木
- 舌苔白膩または黄膩・脈滑または濡
主な病機
- 外感湿邪:長雨・湿地・湿熱の気候により外湿が侵入。
- 脾失健運:脾虚により運化が失調し、内湿が生じる。
- 飲食不節:脂っこい物・甘味過多が湿濁を生じる。
- 久病入絡:湿邪が長く滞り、気血の流れを阻む。
- 湿熱または寒湿化:湿が熱を帯びるか、または寒に結して病変化。
祛湿法の分類
- 芳香化湿:中焦に停滞した湿を香りで化し、脾胃を通暢にする(例:藿香・佩蘭)。
- 利湿滲湿:小便を通じて体内の湿を排泄する(例:茯苓・猪苓・沢瀉)。
- 燥湿健脾:脾の運化を助け、内湿を除く(例:蒼朮・厚朴・陳皮)。
- 温化寒湿:寒湿による関節痛・冷感などに(例:乾姜・附子・桂枝)。
- 清化湿熱:湿熱による口苦・黄膩苔・尿赤などに(例:黄芩・滑石・茵蔯蒿)。
- 祛風除湿:風湿痺による関節痛・筋肉痛に(例:羌活・独活・防己)。
主な配合法
- 祛湿+健脾:脾虚湿盛による倦怠・下痢に(例:参苓白朮散)。
- 祛湿+理気:湿滞気阻による胸脘脹満に(例:藿香正気散)。
- 祛湿+清熱:湿熱中阻・黄膩苔に(例:三仁湯・茵蔯蒿湯)。
- 祛湿+温陽:寒湿痺・冷感・浮腫に(例:真武湯・苓桂朮甘湯)。
- 祛湿+活血:湿滞血瘀による関節痛・月経不調に(例:独活寄生湯)。
- 祛湿+通淋:下焦湿熱による小便不利に(例:八正散・五苓散)。
代表的な方剤
- 平胃散(へいいさん):燥湿健脾・行気和胃。湿滞中焦による脹満・食欲不振。
- 藿香正気散(かっこうしょうきさん):解表化湿・理気和中。外感風湿による嘔吐・下痢。
- 五苓散(ごれいさん):利水滲湿・温陽化気。水湿内停による浮腫・尿少・下痢。
- 三仁湯(さんにんとう):宣暢気機・清熱化湿。湿温初起による頭重・倦怠。
- 真武湯(しんぶとう):温陽利水・祛寒化湿。陽虚水滞・四肢冷感。
- 茵蔯蒿湯(いんちんこうとう):清熱利湿・退黄。湿熱黄疸に用いる。
- 独活寄生湯(どっかつきせいとう):祛風除湿・補肝腎・益気血。慢性関節痛・痺証。
臨床でのポイント
- 祛湿法の核心は、湿を除きつつ正気を損なわないことにある。
- 湿の所在(表・裏・上・下)と性質(寒・熱・濁)を弁別することが重要。
- 慢性の湿証では、健脾・理気・化痰を兼ねて運化を助ける。
- 外感を伴う場合は発表薬を、寒湿には温化薬を、湿熱には清熱薬を配する。
- 長期的には、脾の健運を回復させることが根本治療となる。
まとめ
祛湿は、湿邪によって気機が阻まれ、脾胃や経絡に障害を生じた状態を改善する基本治法である。 湿の寒熱・虚実・部位に応じて、芳香化湿・利湿滲湿・清熱化湿・温化寒湿などを使い分ける。 平胃散・藿香正気散・五苓散などが代表的方剤で、 頭重・倦怠・浮腫・脘腹脹満・下痢など、湿に関連する多様な症状に応用される。
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