概要
和血（わけつ）とは、血の運行を調え、滞りを解き、血行を円滑にする治法である。 「和」は調和・通利を意味し、血の流れを穏やかに整えることを目的とする。 和血法は、瘀血（おけつ）ほどの強い停滞ではない軽度の血行不良や、気血の不和による疼痛・月経異常・鬱滞などに適応する。
単に「活血」と異なり、攻めるよりも整える（和す）ことを重視し、気血両面を調える方剤構成となる。 したがって、虚実の中間証・慢性的な血行不順・情志失調に伴う血行障害に広く用いられる。
主な適応症状
- 胸脇・少腹の張りや痛み（鈍痛・刺痛ではない）
- 月経不順・月経痛・経血量の変動
- 顔色萎黄・くすみ・倦怠感
- 情緒不安・抑うつ・気分の停滞感
- 舌質やや暗紅・舌苔薄・脈弦または弦細
これらは、気滞・血行不暢・情志の鬱結によって気血の調和が失われた結果生じる。
主な病機
よって和血法は、血の滞りを緩やかに通じさせ、気の運行を整えて気血を調和させることを目的とする。
主な配合法
- 和血＋理気：肝気鬱結・気滞血鬱（例：逍遥散、加味逍遥散）。
- 和血＋補血：血虚を伴う血行不良（例：四物湯、帰脾湯）。
- 和血＋活血：瘀血傾向が強い慢性疾患（例：桂枝茯苓丸、桃核承気湯）。
- 和血＋疏肝：情志失調による月経異常・胸脇痛（例：加味逍遥散、柴胡疏肝散）。
- 和血＋温経：寒凝による血行不順（例：温経湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯）。
代表的な方剤
- 逍遥散（しょうようさん）：肝脾不和・気血不調。疏肝解鬱・健脾和血。
- 加味逍遥散（かみしょうようさん）：肝鬱化火・血熱の傾向。疏肝清熱・和血調経。
- 温経湯（うんけいとう）：寒熱錯雑・血虚・瘀血。温経散寒・養血和血。
- 桂枝茯苓丸（けいしぶくりょうがん）：瘀血内阻・血行不暢。活血化瘀・調経和血。
- 四物湯（しもつとう）：血虚・血行不調。補血和血・調経止痛。
- 当帰芍薬散（とうきしゃくやくさん）：肝脾血虚・水滞。補血調肝・和血化湿。
臨床でのポイント
- 和血は、血の滞りが軽度で、気滞・血虚・情志鬱結が混在する証に適する。
- 血行促進を目的とするが、攻めすぎず、補気・理気と併用して気血を整える。
- 女性の月経異常や更年期障害、慢性頭痛・肩こり・情緒不安などにも広く応用される。
- 瘀血が明確な場合は活血化瘀法に転じ、虚が強い場合は補血法を加える。
- 「気を理し、血を和す」ことを主眼とし、温柔な治法として慢性疾患に適する。
まとめ
和血は、血の流れを円滑にし、気血の不調を調える穏やかな治法である。 主に気滞・血虚・情志不和などによる血行障害に用いられ、代表方剤には 逍遥散・加味逍遥散・温経湯・桂枝茯苓丸・四物湯などがある。 活血よりも緩やかで、虚実の中間証や慢性の血行不良に最適な治法である。
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