昇降失調(しょうこうしっちょう)とは、気の本来持つ「昇(上へ持ち上げる)」「降(下へおろす)」という運行方向が乱れ、臓腑の気機の上下調節が失われた状態を指します。
正常では肝の疏泄や脾胃の升降、肺の宣降・腎の納気などが協調して気の昇降を行うが、それらの調和が破綻するとめまい・気逆・消化不良・倦怠・失眠など多彩な症状が現れる。
主な原因
- 情志不調: 肝の疏泄が失調して気が上逆や停滞を生じる。
- 脾胃失調: 昇清(昇)作用の低下により清気が上貴せず、気の降下が阻まれる。
- 肺腎不協調: 肺の宣降と腎の納気が不調で呼吸器症状や気逆を招く。
- 痰湿・痰熱の阻滞: 痰湿が気機を阻害し昇降の失調を助長する。
- 久病・気虚: 正気不足で気の運行力が低下し、昇降調節ができなくなる。
病理機転
- 肝の疏泄失調 → 気の升降が乱れ、気が上逆してめまい・頭重や胸悶を生ずる。
- 脾の昇清機能低下 → 清気が上に昇らず、下焦に停滞して痰湿や下痢を生じる。
- 肺の宣降機能障害・腎の納気不全 → 呼吸短促、気逆(喘嗽・息切れ)を呈する。
- 痰湿・痰熱が気道・経絡を塞ぐと、気の通行が滞り昇降異常が固定化する。
主な症状
- めまい、頭重感、ふらつき
- 胸悶・胸脇の張り、ため息が多い
- 咳嗽・気逆・喘鳴(肺腎不協調)
- 食欲不振、腹満、嘔気(脾胃昇降失調)
- 精神不安、失眠、多夢(気機の不調が心神に及ぶため)
- 慢性化すると倦怠感、体力低下、痰多や浮腫を伴うこともある
舌・脈の所見
- 舌: 淡胖または紅、苔は薄白~膩(痰湿を伴うと膩苔)
- 脈: 弦(肝鬱型)、濡滑(痰湿型)、虚緩(気虚型)など多様に変化する
代表的な方剤
- 半夏厚朴湯: 梅核気・痰気による気の昇降失調に。
- 柴胡疎肝散: 肝気鬱結による気機の不調を改善する。
- 補中益気湯: 脾気虚で昇清作用が低下している場合に。
- 蘇子降気湯: 肺の粛降が失われ気逆が強いときに。
- 苓桂朮甘湯: 痰飲・水湿が上擾してめまい・動悸がある場合に。
治法
- 疏肝理気: 促して肝の疏泄を回復し気の運行を整える。
- 健脾昇清: 脾の昇清機能を補い清気の上承を助ける。
- 宣降肺気・納腎気: 肺腎の協調を恢復して気の上下を安定させる。
- 化痰利水: 痰湿や停水を去り気の通路を開く。
- 補気益血: 正気を扶助して昇降の原動力を回復する。
養生の考え方
- 情緒のケア:ストレスや怒りを溜めない、適度な気分転換を行う。
- 規則正しい食事:冷飲や消化に重い食品を避け、脾胃を養う。
- 呼吸法・軽運動:深呼吸や散歩で肺の宣降・気機の流れを助ける。
- 痰湿対策:脂っこい物・甘味を控え、利湿食材(冬瓜・はと麦等)を取り入れる。
- 十分な休養:過労を避け、体力を温存する。
まとめ
昇降失調は、臓腑間の気機の上下調節が崩れた状態で、めまい・胸悶・気逆・消化不良・不眠など多岐にわたる症状を呈します。
治療は疏肝理気・健脾昇清・宣降肺気・化痰利水・補気養血を組み合わせ、原因(肝鬱・脾虚・肺腎不協調・痰湿など)に基づく弁証が重要です。
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