概要
補虚瀉実(ほきょ しゃじつ)は、虚実錯雑証に対して、虚を補うと同時に実を瀉す治法である。虚実が並存する病態は慢性病や久病でよく見られ、例えば「本虚標実」(本=正気不足、標=邪実存在)や「虚実夾雑」の状態である。虚証を放置すれば正気の回復がなく、実証のみを攻めると正気をさらに傷つけるため、両者を兼顾することが重要となる。
主な適応症状
- 倦怠感・疲労感が強いが、局所に疼痛や腫脹がある
- 慢性疾患に伴う脾胃虚弱と湿痰停滞
- 気虚便秘(排便力が弱いが腸に実邪が滞る)
- 虚弱体質における咳嗽痰多
- 舌質淡または紅、苔は膩または厚薄混在、脈は虚中に実を帯びる
主な病機
主な配合法
- 補虚瀉実+健脾利湿:脾虚痰湿で痰多・浮腫を伴う場合
- 補虚瀉実+活血化瘀:気虚血瘀で疼痛や瘀斑がある場合
- 補虚瀉実+清熱解毒:虚弱体質に痰熱や瘡瘍を伴う場合
- 補虚瀉実+潤腸通便:気虚便秘で腸中に実滞がある場合
代表的な方剤
- 補中益気湯合承気湯:気虚便秘・少気倦怠を伴う場合。益気と通腑を兼ねる。
- 黄耆建中湯合小承気湯:脾虚腹痛に便秘を伴う虚実夾雑証。
- 十全大補湯合桃紅四物湯:気血両虚に瘀血阻滞を兼ねる場合。
- 六君子湯合二陳湯:脾胃虚弱に痰湿が著しい場合。
臨床でのポイント
- 補虚と瀉実の「軽重・先後」を見極めることが重要。
- 正気が極度に虚していれば、まず補虚を主体とし、実邪を漸次取り除く。
- 実邪が旺盛で危急の場合は、先に瀉実してから徐々に補虚に移行する。
- 虚実の偏りが変動しやすいので、証候の変化に応じて加減する柔軟さが求められる。
まとめ
補虚瀉実は、虚実錯雑の病態に対して、虚を補いながら実を瀉す治法である。慢性疾患や久病虚労においてよく見られ、補中益気湯合承気湯などの方剤が代表である。臨床では、虚実の軽重や先後を見極め、バランスよく治療を行うことが要点となる。
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