調経安胎とは

概念

調経安胎(ちょうけいあんたい)とは、婦人の月経を整え、妊娠を安定させて流産を予防する治法である。
「調経」は月経周期・量・質を正常にすることを目的とし、「安胎」は妊娠中の胎気を安定させ、胎元を守ることを指す。
主に婦人科領域に用いられ、肝・脾・腎の調整と気血の安定を図ることで、受胎・妊娠維持・流産防止を目的とする。


所属

調経安胎法は、主に補益法理気法活血化瘀法などと関連し、特に肝脾腎の虚損・気血不調・衝任失調による婦人科症状や胎動不安に対して用いられる。


効能

  • 月経周期を整え、気血の調和を図る。
  • 衝任脈を調え、排卵・受胎を助ける。
  • 妊娠中の胎元を安定させ、流産を防ぐ。
  • 肝脾腎を補い、血海を充実させる。
  • 安胎しつつ母体の体力を補う。

主治

  • 月経不順:周期の早遅・量の多寡・色の異常など。
  • 月経痛:気滞血瘀や寒湿による経行腹痛。
  • 不妊症:衝任不調・腎虚・気血不足による受胎困難。
  • 妊娠不安(胎動不安):腹痛・腰痛・下墜感・少量出血など。
  • 習慣性流産:腎虚・気血両虚・血熱・瘀血による胎元不固。

病機

女性の月経・妊娠・出産は、主に肝・脾・腎および衝任脈の働きと密接に関係する。
肝は血を蔵し疏泄を主り、脾は気血を生じ、腎は精を蔵して生殖を主る。
これらの虚損や気血の失調が生じると、月経異常・不妊・胎動不安・流産などが起こる。
調経安胎法は、肝脾腎の調和・衝任の安定・気血の充実を図り、母体と胎児の両方を守ることを目的とする。


代表方剤

  • 四物湯血虚による月経不順・無月経・顔色萎黄。
  • 逍遥散:肝鬱血虚による月経不調・精神不安。
  • 温経湯寒凝血瘀による不妊・月経痛・経行不順。
  • 当帰芍薬散脾虚湿盛による月経不順・不妊・浮腫。
  • 寿胎丸:腎虚による胎動不安・習慣性流産。
  • 保胎湯:気血両虚による胎漏・胎動不安。
  • 泰山磐石散:気血両虚・腎虚による安胎補益。

臨床応用

  • 月経不順・月経痛・排卵障害。
  • 不妊・黄体機能不全などの生殖機能低下。
  • 妊娠初期の出血や下腹部不快感。
  • 習慣性流産・胎動不安。
  • 更年期前後のホルモンバランス異常。

使用上の注意

  • 妊娠中は、証に応じて方剤を慎重に選び、攻下・活血薬の過用を避ける。
  • 流産の兆候がある場合は、安胎を主としつつ、清熱・化湿・理気などを補助的に行う。
  • 月経期・妊娠期・産褥期など、身体状態に応じて施治の重点を変える。
  • 重度の出血や腹痛などの急症では、西洋医学的対応を優先する。

まとめ

調経安胎法は、婦人の月経・受胎・妊娠を通して、肝脾腎と衝任の気血を調え、胎元を安定させる治法である。
代表方剤は四物湯当帰芍薬散・寿胎丸・泰山磐石散などで、気血を養い・腎精を補い・衝任を調えることが治療の要点となる。
不妊症・月経異常・妊娠不安など、女性の生殖・妊娠に関わる諸症に広く応用される。

固本培元とは

概念

固本培元(こほんばいげん)とは、身体の根本(=腎精・元気)を固めて養い、生命力の基礎を強化する治法である。
「本(ほん)」とは生命の根源、すなわち腎・精・元気を指し、「培元」とはそれを養い育てることを意味する。
長期の病後・加齢・虚損・過労などで腎精が消耗した際に、精・気・血を補い、体の根本的な回復を促すことを目的とする。


所属

固本培元法は、主に補益法に属し、特に補腎法益気法養血法滋陰法などを総合的に用いる。
虚損・老衰・久病体弱・精血不足などの慢性虚証に対して応用される。


効能

  • 腎精を補い、生命力の根本を強める。
  • 元気を回復し、臓腑機能を安定させる。
  • 精・気・血を充実させ、虚損を改善する。
  • 免疫・体力・回復力を高め、老化を防ぐ。
  • 慢性虚弱・病後虚脱を改善する。

主治

  • 腎精不足耳鳴・健忘・腰膝酸軟・性機能減退・不妊。
  • 元気虚脱:倦怠・息切れ・食欲不振・虚汗。
  • 久病虚損:体力低下・免疫力低下・顔色萎黄。
  • 老衰体弱:腰膝無力・歩行困難・耳目不聡。
  • 病後虚脱・術後回復期:体力消耗、元気回復不良。

病機

東洋医学では、「腎は先天の本」「脾胃は後天の本」とされる。
長期の病気や加齢、過労などにより、腎精が損耗し、元気が衰えると、臓腑機能が低下し、身体全体の回復が困難となる。
固本培元法では、腎精を補い・気血を充実させ・臓腑の働きを整えることで、生命活動の根源的な力を再び養うことを目的とする。


代表方剤

  • 六味丸腎陰虚による腰膝酸軟・めまい・耳鳴。
  • 右帰丸:腎陽虚による冷え・陽痿・不妊。
  • 八仙長寿丸:腎精不足・老化・虚弱。
  • 人参養栄湯気血両虚・疲労倦怠・食欲不振。
  • 十全大補湯気血両虚・慢性虚弱・病後回復。
  • 地黄飲子:腎精虚衰による聴覚・言語障害。

臨床応用

  • 慢性疾患・術後の体力回復。
  • 老化防止・アンチエイジング・虚弱体質改善。
  • 不妊・精力減退・月経不順などの生殖機能低下。
  • 免疫力・自然治癒力の低下を伴う慢性症。
  • がん・難病・長期療養後の全身虚弱。

使用上の注意

  • 実熱・湿熱・瘀血などの実証には不適である。
  • 補益薬の使用は、消化吸収機能(脾胃)の状態を考慮する。
  • 短期間での即効性は乏しく、長期的に体質を改善する目的で用いる。
  • 高齢者や虚弱者では、滋補薬の過用による停滞(痰湿・腹満)に注意する。

まとめ

固本培元法は、生命の根本である腎精・元気を補い固め、身体全体の回復力を高める治法である。
代表方剤は六味丸・右帰丸・人参養栄湯十全大補湯などで、腎精の充実・気血の調和・臓腑機能の回復を図る。
慢性虚弱・老衰・長病後の回復に広く応用される、体の根を整える根本治療法である。

調下焦とは

概念

調下焦(ちょうかしょう)とは、下焦(腎・膀胱・大腸・小腸など)における気血・津液の運化と排泄機能を調整し、上下の気機の通暢をはかる治法である。
東洋医学では、身体を上・中・下の三焦に分けるが、下焦は「排泄」と「生殖」を主る領域であり、腎・膀胱・大小腸などの機能が密接に関係する
そのため、調下焦法は水道の通利・大小便の調整・下焦の湿熱や寒滞の除去などを目的として行われる。


所属

調下焦法は、清熱法利湿法通便法温補法などと併用され、
下焦の寒熱・虚実・湿滞などの状態に応じて使い分けられる。


効能

  • 下焦の気機を調え、排泄機能を回復する。
  • 水道の通利を促し、小便不利・浮腫を改善する。
  • 腸を潤して便通を調える。
  • 腎気を補い、生殖・泌尿の機能を整える。
  • 上下の気機の通暢をはかり、全身の平衡をとる。

主治

  • 湿熱下注小便短赤、排尿痛、陰部湿痒、下肢重だるさ。
  • 寒湿凝滞:小便不利、下腹冷痛、腰膝冷感。
  • 腎陽虚衰:尿量減少、むくみ、足腰の冷え。
  • 腎陰不足尿少・黄濁、口渇、のぼせ、五心煩熱。
  • 便秘または泄瀉:下焦の気機失調による排便異常。
  • 不妊・帯下・性機能低下:腎精不足や湿熱の滞りによる。

病機

下焦は「水穀の終り」であり、気・血・津液の昇降出入を最終的に調整する部位である。
ここに湿熱・寒邪・虚損などが生じると、水道不利・大小便異常・帯下・浮腫などの症状が起こる。
したがって調下焦法では、清熱利湿温陽化気補腎益精・通利水道などの手法を組み合わせ、上下の気機を貫通させることを目的とする。


代表方剤

  • 八正散:下焦湿熱による小便不利・淋証。
  • 竜胆瀉肝湯肝胆湿熱の下降による陰部腫痛・排尿障害。
  • 猪苓湯水湿内停による尿不利・煩熱。
  • 真武湯腎陽虚衰による浮腫・下肢冷痛・下痢。
  • 六味丸腎陰虚による腰膝酸軟・小便短少。
  • 桂枝加竜骨牡蛎湯腎虚による遺精・不眠・神経過敏。
  • 大承気湯下焦実熱による大便秘結・腹満。

臨床応用

  • 排尿障害・尿閉・膀胱炎・前立腺炎。
  • 便秘・下痢・痔疾などの大腸疾患。
  • むくみ・腎炎・ネフローゼなどの水腫。
  • 月経不順・帯下・不妊・性機能低下。
  • 腰痛・下肢の冷えやだるさ。

使用上の注意

  • 寒熱・虚実の鑑別を明確にして治法を選択すること。
  • 実熱による小便不利には清熱利湿法を、虚寒による場合は温陽化気法を用いる。
  • 下焦虚損の場合、過度の利水や瀉下は避ける。
  • 体力の衰弱した者には補益と調和を兼ねる処方を用いる。

まとめ

調下焦法は、下焦における水分代謝・排泄機能・生殖機能を調えることで、全身の気機を円滑にし、上下の平衡を保つ治法である。
主な方剤には八正散・竜胆瀉肝湯真武湯六味丸などがあり、清熱利湿温補腎陽・滋陰養腎などの法が併用される。
すなわち、調下焦とは「下を調えて全体を治す」ことを目的とする治法である。

利二陰とは

概念

利二陰(りにいん)とは、小便・大便の二陰(にいん)を通じさせ、体内の湿熱や瘀滞を排出して気機を調える治法である。
東洋医学で「二陰」とは大小便の出口(尿道と肛門)を指し、利二陰法はこれらの排泄機能を改善して、湿熱・滞積・実邪を体外に排出し、内外の調和を図ることを目的とする。
主に湿熱下注小便不利・大便秘結・裏熱壅盛などの病証に応用される。


所属

主に清熱法利湿法通便法などに属し、
実熱・湿熱・瘀滞による二陰閉塞(小便不通・大便秘結)や、熱毒・黄疸・淋証などに広く応用される。


効能

  • 大小便の通利を促進し、排泄機能を回復する。
  • 体内の湿熱・実熱・瘀滞を除く。
  • 気機を疏通させ、下焦のうっ滞を解消する。
  • 水分代謝を整え、浮腫や尿閉を改善する。
  • 腸内の熱毒を清して大便を通じさせる。

主治

  • 湿熱下注小便短赤、排尿痛、灼熱感、尿道不快。
  • 裏熱秘結:大便秘結、腹満、口渇、舌紅苔黄。
  • 小便不利尿少・尿閉・浮腫、熱感を伴う。
  • 熱毒壅盛:黄疸、便秘、尿濁、発熱。
  • 水湿停滞:小便減少、下肢浮腫、倦怠感。

病機

体内に湿熱や実熱がこもると、気機の昇降が阻まれ、二陰(大小便)の通利が失われる
湿熱が下焦に滞れば小便不利・尿閉を生じ、熱結が腸にこもれば大便秘結を生じる。
このような場合、利二陰法清熱・利湿・通便・行気などの方法を組み合わせ、二陰の通利を回復させることで内熱を瀉し、気血の循環を正常化することを目的とする。


代表方剤

  • 八正散(はっしょうさん):湿熱による小便不利・尿痛・淋証。
  • 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう):肝胆湿熱・小便短赤・陰部の腫痛。
  • 大承気湯(だいじょうきとう):裏熱実証による大便秘結・腹満。
  • 調胃承気湯(ちょういじょうきとう):胃腸の熱結による便秘・口渇。
  • 茵蔯蒿湯(いんちんこうとう):湿熱黄疸・尿少・口苦。
  • 猪苓湯(ちょれいとう):水湿停滞による尿不利・口渇・煩熱。

臨床応用

  • 尿閉・排尿困難・膀胱炎・尿道炎などの泌尿器疾患。
  • 大便秘結・痔疾・便秘を伴う発熱性疾患。
  • 黄疸・湿熱性下痢・肝胆疾患。
  • 腎炎・浮腫・排尿障害。
  • 熱性疾患で大小便の排出が滞る場合の補助療法。

使用上の注意

  • 虚寒による小便不利・便秘には使用しない。
  • 体力低下や津液不足のある者では、過度の通利は損傷を招くため慎用する。
  • 二陰不通の原因が虚証の場合は、温補・益気法を優先する。
  • 実熱・湿熱証との鑑別を十分に行う。
  • 長期連用は脾胃を損傷するおそれがあるため注意。

まとめ

利二陰法は、実熱・湿熱・瘀滞などによって閉塞した二陰を通じさせ、排泄機能を回復させる治法である。
代表方剤は八正散・竜胆瀉肝湯大承気湯茵蔯蒿湯などで、清熱・利湿・通便を要点とする。
大小便の不利を改善することで、体内の熱邪・湿邪を排出し、上下の気機を調和させ、全身のバランスを整えることを目的とする。

清熱利口とは

概念

清熱利口(せいねつりこう)とは、体内にこもった熱邪を清し、口腔や咽喉の熱証を鎮め、口腔の腫痛・潰瘍・口渇などを改善する治法である。
東洋医学では「口は脾の竅」「舌は心の苗」とされ、脾胃・心・胃・肝経に熱がこもると、口舌生瘡・咽喉腫痛・口渇・口臭などの症状が現れる。
清熱利口法は、熱邪を取り除き、津液を回復し、口腔の機能と潤いを取り戻すことを目的とする。


所属

主に清熱法に属し、心火上炎・胃熱熾盛・肝火上炎陰虚火旺などによって起こる口内熱証に応用される。
また、病因に応じて養陰瀉火解毒化湿などの治法を兼ねることが多い。


効能

  • 体内の熱邪・火邪を清する。
  • 口腔・舌・咽喉の腫痛や潰瘍を改善する。
  • 口渇・口臭・口苦を除く。
  • 津液を生じ、口腔の潤いを回復する。
  • 心・胃・肝の実熱を鎮める。

主治

  • 心火上炎口舌生瘡、口渇、煩躁、顔面紅潮、小便赤。
  • 胃熱熾盛:口臭、歯痛、口内炎、歯齦腫脹、便秘。
  • 肝火上炎口苦、煩躁、目赤、いらいら、側頭部痛。
  • 陰虚火旺口乾舌紅、口腔乾燥、舌裂、ほてり、寝汗。
  • 湿熱上攻:口内の粘つき、苦味、口腔の重だるさ、舌苔黄膩。

病機

飲食の不摂生・情志失調・外邪侵入などにより、心火・胃火・肝火・湿熱が上炎して口腔部に熱を生じると、津液が損傷し、口渇・口内炎・口臭などが現れる。
また、陰虚によって虚熱が生じた場合にも、口乾・舌紅・裂紋などの症状が起こる。
清熱利口法は、清熱瀉火解毒養陰化湿などを用いて熱邪を除き、津液の生成を助け、口腔環境を整える治法である。


代表方剤

  • 黄連解毒湯(おうれんげどくとう):心火旺盛・口舌生瘡・煩躁。
  • 清胃散(せいいさん):胃火上炎による歯痛・口臭・歯齦腫痛。
  • 瀉心湯(しゃしんとう):心胃実熱による口内炎・舌腫・口渇。
  • 涼膈散(りょうかくさん):上焦実熱による口舌の潰瘍・咽痛・便秘。
  • 養陰清肺湯(よういんせいはいとう):陰虚火旺による口乾・咽喉乾燥。
  • 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう):肝胆実熱による口苦・目赤・煩躁。

臨床応用

  • 口内炎・舌炎・歯肉炎・咽喉腫痛。
  • 口渇・口苦・口臭などの口腔熱症状。
  • 熱性疾患や感染症に伴う口内熱感。
  • 胃炎・口腔潰瘍・口角炎など。
  • 陰虚体質による慢性の口乾。

使用上の注意

  • 実熱の場合は清熱瀉火を主とし、虚熱では養陰清熱を行う。
  • 脾胃虚寒による口の異常には用いない。
  • 過度の清熱薬の使用は脾胃を損傷しやすいので慎用する。
  • 熱証の有無を見極め、陰虚や津液不足との鑑別が重要。
  • 慢性疾患や口腔乾燥症では補陰薬を併用する。

まとめ

清熱利口法は、心火・胃火・肝火などの熱邪を清し、口腔や舌の熱証を改善する治法である。
代表方剤は黄連解毒湯・清胃散・涼膈散・養陰清肺湯などであり、清熱瀉火養陰解毒化湿を組み合わせて応用する。
口内炎・歯痛・口渇・口苦・口臭などの症状に広く用いられ、心胃の熱を去り、津液を回復して口腔を清潤に保つことを目的とする。

調和口唇とは

概念

調和口唇(ちょうわこうしん)とは、口唇(くちびる)の異常を調整し、脾胃・気血・津液のバランスを整える治法である。
東洋医学では「口は脾の竅に属す」とされ、脾胃の働きや気血の盛衰が口唇の色・潤い・感覚に反映される
したがって、口唇の乾燥・蒼白・紅赤・ひきつれ・しびれなどの症状は、脾胃や気血の失調によるものであり、調和口唇法ではこれらの原因を是正して口唇の正常な状態を回復させることを目的とする。


所属

主に健脾和胃法調気血法清熱法などに関連し、脾胃失調・気血不足・熱盛傷津・風邪口噤などによる口唇異常に応用される。


効能

  • 脾胃の働きを調和して、口唇の色・潤いを回復する。
  • 気血を整え、口唇の蒼白・紅赤・萎縮を改善する。
  • 津液を生じて乾燥やひび割れを治す。
  • 風邪・熱邪による口のひきつれ・口噤を解消する。
  • 脾胃・心経・口周の経絡を通じさせ、感覚異常を改善する。

主治

  • 脾気虚口唇が淡白、艶がない、倦怠、食欲不振。
  • 血虚唇の色が白っぽく乾燥、めまい、顔色蒼白。
  • 血熱唇紅赤、乾燥、裂口、熱感、口渇。
  • 風邪口噤:口が開かない、顎関節のこわばり、熱邪上攻。
  • 痰濁阻滞:唇しびれ、口角麻木、舌苔膩。

病機

口唇は脾の外候であり、脾胃の運化・気血の充実・津液の潤いによって健康が保たれる。
しかし、脾虚では気血の生化が不足し唇が蒼白となり、血熱・陰虚では津液が損傷して乾燥や裂口が起こる。
また、風熱・痰濁・中風などによって経絡の通行が阻まれると、口角麻木・ひきつれ・口噤などの症状を呈する。
調和口唇法は、健脾養血清熱祛風などを用い、原因に応じて脾胃と経絡を調え、口唇の正常な機能を回復させる。


代表方剤

  • 帰脾湯(きひとう):脾気・心血両虚による唇の蒼白・倦怠・不眠。
  • 四君子湯(しくんしとう):脾胃虚弱による口唇の艶消え・倦怠。
  • 清営湯(せいえいとう):血熱による唇紅・乾燥・裂口。
  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):脾虚による唇色淡白・倦怠無力。
  • 羚角鉤藤湯(れいかくこうとうとう):風熱上攻による口噤・痙攣。

臨床応用

  • 口唇の乾燥・裂け・ひび割れ。
  • 唇の蒼白・萎縮・色調変化。
  • 口角のしびれ・ひきつれ・麻木。
  • 口が開かない、顎関節の強直。
  • 体質改善としての美容・健脾目的。

使用上の注意

  • 実熱による唇紅・乾燥には補益薬を用いず、清熱・養陰を重視する。
  • 脾虚・気血不足による蒼白・萎縮には温補・健脾を行う。
  • 痰濁や風邪による口噤・麻木では祛風化痰を加える。
  • 慢性の唇乾燥では陰虚や津液不足の鑑別が必要。
  • 外的損傷・感染などの場合は局所治療を併用する。

まとめ

調和口唇法は、脾胃・気血・津液の失調によって起こる口唇異常を改善する治法である。
原因に応じて健脾養血清熱祛風などを組み合わせ、唇の色・潤い・感覚を回復させる。
代表方剤は帰脾湯四君子湯・清営湯などであり、口唇の状態は脾胃の鏡であるという東洋医学的観点から、全身の調整を重視する。

開竅蘇厥とは

概念

開竅蘇厥(かいきょうそけつ)とは、閉塞した心竅を開き、昏厥(意識喪失)を回復させる治法である。
寒邪・痰濁・気滞などによって心竅が閉塞すると、突然の昏倒・意識喪失・四肢厥冷などの症状が現れる。
開竅蘇厥法は、閉塞した竅を開き、気血の流通を促して神明の回復を図ることを目的とする。


所属

主に開竅法に属し、寒厥・痰厥・気厥などによる突然の昏倒・意識喪失に対して用いられる。
また、回陽救逆法醒神開竅法と併用されることも多い。


効能

  • 閉塞した心竅を開き、神志を回復させる。
  • 昏厥を醒まし、意識を回復する。
  • 痰濁・寒邪による閉塞を除く。
  • 気血の流れを通じさせ、脳への供給を回復する。
  • 突然の昏倒や気絶を速やかに蘇生させる。

主治

  • 寒厥:寒邪が心竅を閉塞し、突然昏倒、四肢厥冷、脈微細。
  • 痰厥:痰濁が上逆し、昏迷、痰鳴、呼吸不利。
  • 気厥:怒気上逆・感情変動などで突然倒れる、短時間の意識喪失。
  • 中風閉証:卒然昏倒、牙関緊閉、痰鳴、昏睡。
  • 急性昏厥症:急な気絶、反応低下、脈微弱。

病機

寒邪・痰濁・気滞などが上逆して心竅を閉塞すると、心神の出入が阻まれ、神明が昏絶する。
これは、閉証の一種であり、外邪や内邪が竅を塞いで神志が内に閉じ込められる状態である。
開竅蘇厥法は、開竅化痰行気を主とし、心神の出入を回復させて意識を蘇らせる。


代表方剤

  • 蘇合香丸(そこうこうがん):痰濁・寒閉による昏厥、気絶、痰鳴。
  • 至宝丹(しほうたん):痰熱・熱厥に用い、意識障害や譫語を伴う場合。
  • 安宮牛黄丸(あんきゅうごおうがん):熱厥・痰熱閉竅による昏迷。
  • 牛黄清心丸(ごおうせいしんがん):熱盛・痰熱による神志不清や意識混濁。
  • 醒脾湯(せいひとう):気厥や脾虚による意識低下に応用することもある。

臨床応用

  • 突然の昏倒・気絶など急性の意識障害。
  • 中風閉証や痰厥による昏迷。
  • 熱中症・感情変動・外傷性昏厥など。
  • 気滞や痰濁体質による意識障害。
  • 救急蘇生の補助療法として応用。

使用上の注意

  • 虚脱・脱証の場合は用いず、回陽救逆法を優先する。
  • 熱閉の場合は清熱開竅法を、寒閉の場合は温開法を用いる。
  • 体力の低下している者には刺激が強すぎる場合があるため慎用する。
  • 昏厥の原因が外傷や循環不全の場合は西洋医学的治療を優先する。
  • 虚証・気血両虚の者には不適応である。

まとめ

開竅蘇厥法は、寒邪・痰濁・気滞などによって閉塞した心竅を開き、意識を回復させる治法である。
代表方剤は蘇合香丸・至宝丹・安宮牛黄丸などであり、開竅化痰行気が治療の要点となる。
急性の昏厥・中風閉証・痰厥などに広く応用される。