気脱とは

気脱(きだつ) とは、元気が急激に消耗・失散して、全身の機能が維持できなくなった重篤な病証です。
亡陽」「亡陰」と並び、危篤状態を示す三大脱証の一つであり、回復しなければ死に至る可能性が高い状態を意味します。


原因

  • 大病・久病消耗: 長期の病気で気が消耗し尽くす。
  • 大出血・大失液: 血や津液の大量喪失により気随血脱。
  • 過度の発汗・下痢: 気と津液が一挙に漏れ去り、正気が保持できない。
  • 急性重症疾患: 重篤な感染症やショック状態により気の根本が崩壊。

主な症状

  • 意識朦朧または昏迷
  • 呼吸微弱、声が出ない、息が絶え絶え
  • 顔色蒼白、汗がだらだら流れる(大汗淋漓)
  • 四肢冷厥、倦怠無力
  • 脈は微細欲絶、または虚脱

舌・脈の所見

  • 舌: 淡白、胖嫩、乾燥または無苔
  • 脈: 微細欲絶、散脈、無力

治療方針

  • 益気回陽・固脱救急: 人参、附子などで元気を回復(例:参附湯、独参湯)
  • 救急処置: 現代医学的な救命対応(輸液、輸血、循環維持)が必須。

養生・注意点

  • 気脱は緊急状態であり、早急な救命処置を最優先とする。
  • 回復後は脾肺腎を中心に気を補う食養・薬養を継続する。
  • 再発を防ぐため、過労や過度の発汗・消耗を避ける。

まとめ

気脱とは、元気が急速に失われた危篤状態で、意識障害・大汗・呼吸微弱などを伴います。
「益気回陽・固脱救急」を中心に、速やかな現代医学的救急対応と補気治療を行うことが生命を救う鍵となります。

実厥とは

実厥(じつけつ) とは、外邪の侵襲や痰濁・瘀血など実邪が阻滞し、気血の逆乱によって生じる厥証を指します。
虚厥が「正気虚脱」によるものであるのに対し、実厥は邪気の充盛や阻滞による急性の昏厥を特徴とします。


原因

  • 外感邪気: 寒邪直中や熱邪亢盛により陽気・津液が阻滞。
  • 痰濁上蒙: 痰湿が上焦を塞ぎ、清竅を閉じる。
  • 血瘀阻滞: 血行が停滞して経脈を閉塞。
  • 情志失調: 激しい怒りや恐怖により気機が急乱。

主な症状

  • 突然の昏倒・意識障害
  • 四肢厥冷、顔面潮紅または紫暗
  • 呼吸促迫・粗重、いびき様呼吸
  • 胸悶、煩躁、痰鳴、痙攣などを伴う場合もある

舌・脈の所見

  • 舌: 暗紅、苔黄膩または厚苔
  • 脈: 弦緊有力、滑数など

治療方針

  • 清熱解毒: 熱厥には清熱開竅(例:安宮牛黄丸、紫雪丹)
  • 化痰開竅: 痰厥には芳香開竅・化痰(例:至宝丹)
  • 活血逐瘀: 血厥には活血化瘀・行気(例:通瘀活血湯)
  • 疏通気機: 情志失調による気厥には疏肝理気

養生・注意点

  • 発作時は速やかな救急対応が必要。
  • 痰湿や瘀血を防ぐため、飲食を節制し規則正しい生活を心がける。
  • 情志の安定を保ち、気機の順調を維持する。

まとめ

実厥は、痰濁・瘀血・外邪などの実邪が気血を阻滞して生じる厥証であり、急性の意識障害や四肢厥冷を呈します。
治療は「開竅醒神」「清熱化痰」「活血逐瘀」など実邪を取り除くことを基本とします。

虚厥とは

虚厥(きょけつ) とは、正気の著しい虚脱によって生じる厥証で、陰陽・気血が極端に不足し、手足の冷えや意識消失を呈する重篤な病態です。
一般に「気厥・血厥」の中でも虚証に属し、多くは長期の病後や大出血、慢性消耗によって発生します。


原因

  • 大失血: 血が急激に失われ、脈絡を充たせず神明が失養する。
  • 久病消耗: 気血が徐々に虚して、昇降が保てなくなる。
  • 過度の発汗・下痢: 津液・陽気が過剰に失われ、陽虚に陥る。
  • 慢性虚弱体質: 脾腎虚損により気血が生化されず、根本が弱まる。

主な症状

  • 突然の意識消失、昏厥
  • 四肢厥冷、顔色蒼白
  • 呼吸微弱、脈が細く無力
  • 大量出血後の失神、長期の消耗性疾患に伴う昏倒

舌・脈の所見

  • 舌: 淡白、胖嫩、苔少または無苔
  • 脈: 微細欲絶、無力

治療方針

  • 益気回陽: 大補元気、回陽救逆(例:参附湯)
  • 養血復脈: 大量出血後は補血・止血を兼ねる(例:独参湯)
  • 救急処置: 意識障害を伴うため、現代医学的救命対応と併用することが不可欠。

養生・注意点

  • 大病・出血・慢性消耗の回復期は気血を養う食養を心がける。
  • 過労や房労を避け、十分な休養を取る。
  • 虚弱体質では脾腎の補養を重点とする。

まとめ

虚厥は、気血や陽気の急激な損失により発生する虚証性の厥であり、意識消失や四肢厥冷など重篤な症状を呈します。
回陽益気・養血救逆を中心とした緊急の治療が必要で、救命的対応と併せて行うことが重要です。

厥逆とは

厥逆(けつぎゃく) とは、陰陽の失調や気血の逆乱によって、手足が冷え、意識障害や昏倒などを呈する急性の病証です。
「厥証」と同義に用いられる場合もありますが、特に四肢逆冷・意識失常・気機の急激な逆乱を強調して表現する際に用いられます。


原因

  • 寒邪直中: 外寒が陽気を閉塞し、四肢に気血が行き渡らない。
  • 熱邪亢盛: 高熱により津液を傷り、神明が蒙閉する。
  • 情志失調: 激しい怒りや恐怖によって気機が乱れ、突然昏倒する。
  • 血行障害: 血瘀や出血、貧血などにより血脈が虚し、意識が失われる。

主な症状

  • 突然の意識喪失・昏倒
  • 手足厥冷(四肢が冷える)
  • 顔色蒼白または潮紅
  • 呼吸の異常(微弱・促迫など)
  • 痙攣、歯関緊閉、四肢硬直を伴う場合もある

舌・脈の所見

  • 舌: 寒厥では淡白湿、熱厥では赤絳乾燥
  • 脈: 沈細無力(寒厥)、洪数有力(熱厥)、弦緊または細数など

治療方針

  • 寒厥: 回陽救逆(例:四逆湯)
  • 熱厥: 清熱開竅(例:安宮牛黄丸・紫雪丹)
  • 気厥: 理気解鬱、安神
  • 血厥: 活血化瘀、補益気血

養生・注意点

  • 発作時は速やかに救急対応を行う。
  • 情志の安定を保ち、過労や不摂生を避ける。
  • 体質に応じて陽気・陰液・気血の調養を行う。

まとめ

厥逆とは、陰陽・気血の急激な失調により、四肢厥冷や意識障害が起こる重篤な病証です。
寒厥・熱厥・気厥・血厥に分類され、応急処置と原因に応じた弁証施治が不可欠です。

厥証とは

厥証(けっしょう) とは、陰陽の偏勝や気血の逆乱によって、突然手足が冷え、意識障害や昏倒を呈する急性の病証を指します。
病機としては、気血逆乱による「気厥・血厥」、寒邪直中による「寒厥」、熱盛津傷による「熱厥」などに分けられます。


原因

  • 寒邪直中: 外寒が直入して陽気を閉塞。
  • 熱邪亢盛: 高熱により津液を傷り、気機阻滞。
  • 気機逆乱: 激しい怒り・驚恐などの情志失調により気の逆乱が生じる。
  • 血行障害: 血瘀や出血、貧血により血脈が充たされず厥が発生。

主な症状

  • 突然の昏倒・意識消失
  • 手足厥冷、四肢逆冷
  • 呼吸の乱れ、気息微弱または促迫
  • 顔色蒼白または赤熱
  • 場合により痙攣、歯を食いしばる、四肢硬直

舌・脈の所見

  • 舌: 寒厥では淡白・湿、熱厥では赤絳・乾燥
  • 脈: 沈細無力(寒厥)、洪数有力(熱厥)、弦緊または細数など

治療方針

  • 寒厥: 回陽救逆(例:四逆湯)
  • 熱厥: 清熱救陰(例:白虎湯・安宮牛黄丸)
  • 気厥: 理気和中、安神
  • 血厥: 活血化瘀、補血益気

養生・注意点

  • 発作時は速やかに救急処置を行うことが最優先。
  • 情志の失調を防ぎ、過労や飲食不節を避ける。
  • 体質に応じて陽気・陰液・気血の調養を心がける。

まとめ

厥証は、陰陽の偏勝や気血の急激な逆乱によって起こる突発的な意識障害や四肢厥冷の証で、寒厥・熱厥・気厥・血厥に大別されます。
急性かつ重篤であるため、速やかな鑑別と応急治療が不可欠です。

脱証とは

脱証(だっしょう) とは、陰陽・気血が急速に虚脱し、生命活動が危機にさらされている危篤状態を指します。
陰液が急激に消耗する「亡陰」、陽気が急速に虚脱する「亡陽」を含み、いずれも救急に属する重篤な証です。


原因

  • 熱病の極期: 高熱や煩渇により陰液が枯渇する。
  • 久病体虚: 長期の病により気血陰陽が衰弱する。
  • 大量出血・吐瀉: 気血・津液の急失。
  • 外感重邪: 暴寒や暴熱によって正気が急に損耗する。

主な症状

  • 突然の体力崩壊、四肢厥冷
  • 大汗出、顔色蒼白または赤く乾燥
  • 呼吸微弱、気息微少
  • 精神萎靡、意識障害、昏迷
  • 脈微細欲絶、または虚大無力

舌・脈の所見

  • 舌: 赤乾、苔剥、あるいは淡白無華
  • 脈: 微細欲絶、虚大無力

治療方針

  • 回陽救逆: 陽気を回復し、命を救う。
  • 益陰回生: 陰液を補って津液を回復する。
  • 症状に応じ「亡陽」か「亡陰」に準じて対応。

代表的な方剤

  • 四逆湯(しぎゃくとう): 陽気虚脱の亡陽に用いる。
  • 生脈散(しょうみゃくさん): 気陰両虚による亡陰に用いる。
  • 独参湯(どくじんとう): 大虚脱の際に気を固めて回生させる。

養生・注意点

  • 脱証は救急証であり、早急な治療・救命処置が必要。
  • 慢性疾患の進行による場合は、平素から気血を養い正気を保つことが大切。
  • 過労や過度な発汗・出血など、急激に正気を失う要因を避ける。

まとめ

脱証は、陰陽や気血が急速に失われて生命が危機に瀕する証であり、亡陰・亡陽を包含する危篤の病態です。
回陽救逆・益陰回生による迅速な治療が不可欠であり、中医学上もっとも重篤な証のひとつとされます。

亡陰とは

亡陰(ぼういん) とは、体を潤し冷却する陰液が急激に失われ、生命維持が危機に瀕する状態を指します。
高熱や大量発汗、下痢、吐瀉などにより津液・陰液が急速に消耗し、体内の潤いと冷却作用が失われることで発生します。虚脱の一種であり、極めて重篤な状態です。


原因

  • 熱病の極期: 高熱が続き、陰液を著しく損耗する。
  • 大量発汗・大下痢: 津液が急速に流出する。
  • 吐瀉の繰り返し: 体液の消耗による陰虚。

主な症状

  • 大汗が出て体が熱い
  • 手足が温かいが体力は消耗している
  • 皮膚が乾燥し、唇や舌が乾いて裂ける
  • 強い口渇、冷たい飲み物を欲する
  • 呼吸促迫、脈が細数で虚弱
  • 意識がもうろう、昏迷

舌・脈の所見

  • 舌: 赤、乾燥して苔がない
  • 脈: 細数、虚弱

治療方針

  • 益陰回生: 陰液を急ぎ補い、生命機能を回復する。
  • 清熱養陰: 残存する熱を鎮めつつ陰液を養う。

代表的な方剤

  • 生脈散(しょうみゃくさん): 気陰両虚による亡陰。
  • 増液湯(ぞうえきとう): 陰液不足により便秘や煩渇を伴う場合。
  • 独参湯(どくじんとう): 気を回復させつつ陰液も補う必要がある場合。

養生・注意点

  • 亡陰は救急状態であり、速やかな治療が必要
  • 平素から津液を消耗する生活(夜更かし、辛辣・熱性の食物、過労)を避ける
  • 適度に潤いを与える食材(梨、百合根、麦門冬など)を取り入れる

まとめ

亡陰とは、陰液が急激に消耗して生命が危機に瀕する重篤な状態です。
治療は「益陰回生」「清熱養陰」が基本であり、救急対応を要する危険な病態です。